ど素人、黄表紙をよむ

独学で黄表紙を読み、悪戦苦闘の成果をさらす。恥知らずの野暮天ですみません。

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方言競茶番種本⑥

■呑太夫 VS 下手横好

下手横好アップ

  下手横好 「それがし先刻腹痛によって、この家へ用たしにまかり来たるところ、
        酒一献とすすむるゆえ、下地は好きなり御意はよし、
        馳走にあわんと先程より、ひかえ待てども、いかな/\。

        今において盃をも出さず、
        あけらかんと待たせおいたる呑太夫の心底、
        察するところ、口先ばかりのチャラポコにて、
        客を客とも思わず仕打ち、もはや馳走にあうべき所存なし。
        無益の長居に腹へったれば、まかり帰る」
     
と、むしゃくしゃ腹。
畳を蹴立てて横好は、挨拶もせず出てゆく。    
呑太夫が居丈高、

呑太夫全身(すりこぎ)

  呑太夫 「ヤア、客とおもい馳走せんと先刻より、
       家内の騒動する心ざしを無駄にして、
       挨拶もなく立帰る横好が無礼の振る舞い。
       アレ、誰かある。横好を引ったて来たれ。
       異議に及ばば引っくくって立ち返れ、はやう/\」

と、下知につれ、「承る」と次の間より、
若党利金太、中間・小もの、てんでに摺粉木・火吹き竹、
猫も杓子(しゃくし)もおどり出て、勢いこんでかけ出せば、
我も用意と呑太夫、ひと間のうちへ、はせ入りたり。

ほどもあらせず表の方、立ち帰る横好、多勢を相手に叩き合う。
あたまのかけ皿・摺粉鉢、声も割れ鍋、薬缶のくちぐち、
わめき叫んで争うところに、

  呑太夫 「ヤア/\横好、しばらく/\、
       わいわい天王の後胤、間口三間・裏行き六間三尺五寸の家のあるじ、
       酒本呑太夫、見参せん」

と、ひと間の障子押し開き、寒々としてゆるぎ出、

  呑太夫 「ヤア、それがしが馳走をも待たず、
       近餓え(ちかがつえ)して逃げ吼えかく、
       下手の左衛門、立ち返っては喰らうものあるまじ。
       ひもじい腹を立てずとも、はやく我に降参し、
       茶漬けなりと酒なりと喰らって帰れ」

と嘲弄(ちょうろう)す。
横好はぐつと詰め寄り、

  下手横好 「ヤア、舌長し呑太夫。
        まこと我を客とおもわば、
        食膳の結構・山海の珍味を備え、酒は瀧水、肴の数々、
        吸い物・どんぶり・硯蓋(すずりぶた)大平つくりみならべたて、
        差いつ押さえつ、もてなすはず。

        それになんぞや街道茶漬け、馳走というは悪酒の鬼ころしならん。
        我に腹をくだせという汝が企み、小さい/\。
        この上はわが屋敷へたずね来よ。
        目覚しき料理をして、腹存分に喰らわせん」

  呑太夫 「ヤア、細ごと言わずと、客に来たおのれ。
       いっぱい喰らって立ち返れ」

  下手横好 「イヽヤその方、我が方へ来て喰らいおろう」

  呑太夫 「ホヽ、ぬかしたり/\。しからば再会はまた重ねて」

  下手横好 「ヲヽ、そのときはそっちの酒か、こっちの酒か、
        呑むか呑まぬは互いの口、それがしが馳走にあわば、
        腹のさけぬよう用心せい」

  呑太夫 「恩でもないこと、汝こそ、アゴをはずして吼えづらするな」

  下手横好 「まずはそれまでは。さらば/\」

と、負けず劣らぬ水かけ論。
蛙はくちから出放題太平楽の言い声ら、言い仕掛けてぞ別れいる。



若党:足軽よりは上位の小身の従者

利金太:歌舞伎『助六由縁江戸桜』の国侍利金太(くにざむらい りきんた)。
     下っ端の憎めない敵役。

中間:武士に仕えて雑務に従った者。侍と小者との間の身分らしい。

小者:武家の雑用に使われた者、身分の低い奉公人。

舌長し:言い過ぎだ。言い方が生意気だ。

酒は瀧水:四方(よも)久兵衛の銘酒、瀧水。
      多くの本に出てくる、当時の江戸の銘酒の代名詞。

硯蓋:口取りの肴

大平づくり:平たくて大きい椀(大平椀)に盛ったお刺身)

街道茶漬け:通り一遍で誠意がない食事のこと。
       元は街道筋で旅人に出していた、簡単な湯漬けのことらしい。

鬼ころし:安酒の代名詞。鬼も殺すほど酔いがまわる。

わいわい天王の後胤:『義経千本桜』になぞらえれば「×代天皇××の後胤」といきたい所だが、
               わいわい天王(大道芸人)の後胤、というギャグ。
               「わいわい天王」は天狗の面を被り、
               「天王様は囃すがお好き」などと囃して子供を集め、
               牛頭天王の赤いお札を配って、その親からお金をもらう芸人。
               いわゆる言祝ぎ芸の一種。

近餓え:食べたあとにまたすぐ食べるような、ガツガツした様子のこと

蛙は口から出放題:「蛙」と「帰る」をかけた洒落。

太平楽:のんきな様子

方言競茶番種本⑤

■太五助の切腹

太五助とトンビ

  太五助 「さてもそれがし、仰せをうけ、
       豆腐を買い求め立ち帰らんとせし所に、
       いづくよりかは来たりけん、鳶(とんび)一羽、舞い下がり、
       豆腐を目がけるその有様。
       "シヤ、こしゃくな"と身をかわし、
       小石をとって打ちつけ/\、いどみ争うそのうちに、
       四方を見れば、これはいかに。

       いつの間にか二羽三羽、四ツ谷鳶を初めとして、
       しわの山の尻きれとんび壇ノ浦の八艘とび
       黒とび赤とび横っとび、
       爪研ぎすまして、それがしに、輪をかけてこそ取り巻いたり。

       すわ、一大事と根(こん)限り、命限りと支えけれども、
       多勢に一人かなわばこそ、あたまも顔もかきむしられ、
       無念ながらも小半丁、つかみひしがれ候」

と、大息ついで物語る。

太五助の話すうちより呑太夫、青筋出して大きにせい立ち、

台所の戦い

  呑太夫 「ヤア、不覚なり太五助。
       先刻の広言にも似ず、
       とんびに豆腐を茶々むちゃくちゃにされながら、
       生づらさげて立ち帰ったる、うつけ者。
       目通り叶わぬ、すさりおろう」

と、有り合わせた摺粉木(すりこぎ)とって打ち付けられ、
身のあやまりに太五助は、さしうつむいて居たりしが、

  太五助 「ヲヽ、そうじゃ。
       この摺粉木にて腹を切るが、お旦那へ申し訳」

と、両肌おしぬぎ、既にこうよと見えければ、
おなべは慌て、すがり付き、

怒られた太五助  おなべの顔アップ

  おなべ 「またしゃんせ/\」

  太五助 「イヤとめるな、はなせ/\」

  おなべ 「イヽエ、はなさぬ」

  太五助 「さてしつこい、主人へ申し訳の此の切腹、何ゆえ思いとどめる」

  おなべ 「イエ/\、腹きらしゃんすを止めはせぬ。
        今お味噌をするゆえ、このすりこ木が入用じゃ」

と、ひったくられて太五助が、それやってはとむしゃぶりつけば、
呑太夫、はったと睨めつけ、

  呑太夫 「ヤア間抜けの太五助、汝が腹きりたるども、
        なんの糸瓜(へちま)にもならぬ事、
        それよりかは我にひとつの功をたてよ。
        その時は許しくれん」

  太五助 「ハヽッ、有難き旦那のお言葉、死なんとまで覚悟せし太五助が一命、
        お助け下さる上は、いかにもこの身の御恩返し。
        ひとつの功を立てたる上は…」

  呑太夫 「ヲヽ、いうにや及ばず。くどい/\。
        …が、それよりも差し当たって、
        小半丁の豆腐が延引に及びては、横好殿へ馳走にならず。
        ハテ、どうがな…」

と思案の内、下手の横好出て来たり。



四ツ谷鳶:四ツ谷で作られていた鳶の形をした凧。
        これを四羽の鳶とかけて洒落ている。

しわの山の尻切れ鳶:よくわからなかった。
               「しわ」は紫波の山と「四羽」をかけている?
               「尻切れ鳶」は「尻切れトンボ」と同意語。終りがはっきりしないこと。

壇ノ浦の八艘とび:いわゆる"義経八艘飛び"のこと。
             壇ノ浦の戦いで、平教経に襲われた源義経が
             船から船へと飛び移り八艘の彼方に飛び去ったという伝説。
             「とんびと関係ないがな!」と突っ込みたい洒落。

方言競茶番種本④

■酒本家のお台所

お勝手の方では、にわかに騒ぐ下女はした。
お茶よ、お菓子よ、煙草に盆、ガタヒシ開くる、ひと間の障子。

呑太夫の顔アップ

あるじ呑太夫ずっと出て、

  呑太夫 「コリャ/\女ども。
       横好殿へのもてなし、御酒・肴の用意いたせ。
       おなべ、それなる釜の下、こっぱクズか炭俵、
       心附け木に火をうつし、焚きたて焚きたて、湯をわかせ。
       その内棚なる鰹節箱(かつぶしばこ)、
       おろしてごし/\、合点か。早う/\」

と下知すれば、
「心得ました」と下女おなべ、鰹節箱を引出せば、
呑太夫はっと心付き、

  呑太夫 「コリャ/\おなべ、もしも油断を見すまして、
       鰹節を猫めがさらわば、いかに/\」

おなべと猫 (←下女・おなべ)

  おなべ 「ハヽ、仰せの通りでございましょう。
       その時こそは床の下、天井屋根うら揚板の、
       下に猫めが隠るるとも、命にかけて訪ね出し、
       この板の間に鼻づらを、こすってお目にかけましょう」

  呑太夫 「ホヽでかした/\。
       シテ、新参の太五助めはいづくにおる」

太五助アップ (←奉公人・太五助)

  太五助 「ハヽッ、拙者めに御用かな」

  呑太夫「いかにも/\。
      その方、是より新道(しんみち)の豆腐屋へまかりこし、
      豆腐小半丁とってまいれ。早う/\」

  太五助「ハヽッ、委細、承知仕る」

と、そのまま飛びおり、尻ひっからげ、太五助いさみの声高く、

  太五助「豆腐の御用をつとむるそれがし、
      もしもや切れたのなんのかの、
      酢のこんにゃくのとぬかすが最期、
      その豆腐屋の宿六(やどろく)めが、
      そっ首を引き抜き立ち帰らん」

と、踊り上がれば、おなべはぬからず

  おなべ「イヤ/\/\、血気にはやるは油揚(あぶらげ)/\、
      奴どうふと侮られ、田楽ざしの用心あれ」

  太五助「ハヽヽヽ、いらざる世話を焼き豆腐

と、味噌こし小脇にかいこんで、飛ぶがごとくにかけり行く、
あと打ち見やり、

  呑太夫「エヽ、しなしたりわすれたり。
      ついでに大根唐辛子、葱もいつしょに買わすべきもの、残念/\。
      コリャおなべ、太五助を呼び返せ」

と、言う間もあらせず立ち帰る、
太五助が大わらわ、表口より大音上(だいおんじょう)…



酢のこんにゃくの:なんのかんの。あれやこれや。

宿六:ろくでなし

油揚げ油揚げ:「あぶない、あぶない」とかけた洒落。

奴どうふ:奴(やっこ)=雇われの身分の低い者、とかけた洒落

田楽ざし:反撃にあって串刺しにされることを、田楽に例えている。

世話を焼き豆腐:「世話を焼く」と「焼き豆腐」をかけて、
         おなべの洒落に洒落で返している。

方言競茶番種本③

■不意の来客―下手の左衛門横好

こんな折から玄関先、「不時のお客の御入りなり」と、
わめきたてる声につれ、この家の主(あるじ)呑太夫、
衣紋あらため出迎えれば、入り来る客も浄瑠璃好き。

諸事、人形の身振りにて、悠々として座につけば、
呑太夫威儀を正し、

呑太夫の顔アップ (←呑太夫)

  呑太夫 「コレハ/\、下手左衛門横好(へたのさえもんよこずき)どの、
       まずもって御健勝で珍重/\」

下手横好の顔アップ(←下手横好)

  下手横好 「されば/\、其元(そのもと)にもご安体。
        それはともかく、只今それがし、まかり越したは、
        チト折り入って其元へ御無心申すことがござるて。
        ナントお聞き届け下さりょうや」

  呑太夫 「コレハ/\御挨拶。
       日ごろ貴殿とは水魚の交わり、申さばお互いのこと。
       御用あらば何なりとも」

  下手横好 「ホヽヲ、早速の御得心、まずは喜び申し上げる」

  呑太夫 「シテ、その御無心とは何の御用」

  下手横好「イヤ、特別の事情でもござらぬ。
       今日それがし所用あって、御門前をまかり通る折から、
       かねて昨夜より虫腹をこうむり、
       はばかりながらくだり続け、只今も腹痛はなはだしく、
       しきりに大用きざしけれども、
       さしあたってしかるべき雪隠(せっちん)も見え申さず、 
       如何はせんと存ぜしところ、はからずも貴殿の御宅を見受け、
       これ幸いと雪隠の御無心に参ったり。
     
       何とぞ御大事のものながら、しばらくお貸し下さらば、
       しこたま下してこの苦痛を助からんことを、
       生々世々(しょうじょうせせ)の御高恩、ひとえに願い奉る」

と、言う顔さえも青ざめて、ガチガチ震えて頼むにぞ、
呑太夫納得し、

  呑太夫 「ハヽア、近ごろの御辛抱、察し入る。
       イデ、雪隠(せっちん)を御用立てん。
       ヤア/\誰かある、手水鉢(ちょうずばち)に水を入れよ、早う/\」

  下手横好 「イヤ/\、お構いくだされるな。
        はなはだ早急になって参ったれば、すぐさまこのまま」

  呑太夫 「しからばご案内仕らん。
       貴殿のお腹くだるとござらば、イザびりついて、ござりませ」



雪隠:便所。かわや。

:すっきり。

方言競茶番種本②

方言競茶番種本

■浄瑠璃大好き酒本家と、奉公人の太五助

鸚鵡(オウム)がよくものを言っても、声色を使わず、
せいぜいよく喋ったとしても潮来曲(いたこぶし)を歌わない。
人として生まれて声色潮来をうたわぬのなら、
日待ちの茶飯を、大っぴらに喰らうに値しない。
        
この例ではないけれども、これもまた浄瑠璃坂の片すみに、
酒本呑太夫(さけもとのんだゆう)という浪人があった。

妻も夫に連れ節とばかり、好む道といって下女・はしたまで、
家内のこらず諸事万事、みな人形浄瑠璃の仕草にて、
やってくる客人(まろうど)、諸商人(しょあきんど)も、
その心意気をかねてより、ぐっと合点している。

口入れのちょん兵衛、門口から小腰をかがめ、

  ちょん兵衛「ハイ、お頼み申し上げまする、
        酒本呑太夫様というのは、ご在宅でござりまするか。
        この間、仰せ付られました奉公人、召しつれて参りました。
       
        …コレ太五助。
        道々も言う通り、このお宅の旦那様はいたっての浄瑠璃好き。
        それゆえ朝夕なんでもかでも、
        みな浄瑠璃でやり付けねばお気には入らぬ。
        
        幸いそなたも浄瑠璃好き、これぞご注文の奉公人、と
        思ったゆえのわれらが口入れ。
        コレ必ず、ぬかるまいぞや」

…と、言い聞かせれば、太五助うち頷き、
しめし合わせて奥の間より、
この家の女房・お酌が立ち出で、

お酌アップ

  お酌 「ヲヽ、ちょん兵衛どのとやら、大儀大儀。
      委細はあれにて聞きました。
      シテ、その奉公人といやるのは」

  ちょん兵衛 「ハイヤ、すなわちこれなる男、名は太五助と申しまして、
         随分と実体者(じっていもの)、浄瑠璃は大の好物(すき)で 
         ござりますげにござります」

  お酌「ヲヽ、それさえ聞いたら、生国・身元をただすにも及ばぬ。
     しかしまた、他にもなんぞ言っておくべき事もやあるか」

と尋ねれば、太五助、板の間に平伏し、

太五助アップ

  太五助「ハヽッ、お尋ねに預かり、申し上げるもおこがましけれど、
       お庭廻りのはき掃除、お旦那のお髪、月代(さかやき)、薪もわり、
       飯も炊き、小料理もちくとんばかり、ちょっとお客へお吸い物、
       心得田んぼ酒の燗、あつ焼き玉子、ウド三つ葉、
       包丁とってトントントン、とんと抜け目は内証の、
       お徳用にはこの男、
       第一小食くわずとも、患わぬこと、請け合い/\その上に、
       お給金はなんぼでも、安いが望みでござります」
 
と、小鼻をいからして喋った。お酌は悦び、

  お酌 「ヲヽ、でかした/\、いさましい奉公人。
       呑太夫どのも、さぞお喜びであろうわいの」

  ちょん兵衛 「ハヽ、まずは奥殿の御意に入って、拙者めが安堵。
         このうえ旦那へおとりなし、お願い申し上げます」

と、いとま乞いしてちょん兵衛は、おもての方へ立ち出れば、
お酌は奥へ太五助を、伴いてこそ入っていく。



日待:朝のご来光を拝むために、夜通し開かれる酒宴。
    最初は信仰由来の行事だったが、
    そのうちちょっとした宴会の名目になっていったらしい。

はした:雑用係りの身分の低い女性。はしため。

口入れ:年季奉公の奉公人を用立てる手配師。口入屋。

実体者:まじめな者。実直な者。

月代:武士のおでこの剃ってある所。また、それを剃る仕事。

ちくとんばかり:ちょっとばかり

心得たんぼ:「心得た」と「田んぼ」をかけた洒落。
       歌舞伎の『下郎売(ういろううり)』に出てくる、
       威勢のいい口上の中の一節。

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野暮天のサチ

Author:野暮天のサチ
江戸のおもしろ文学『黄表紙』を読み始めて1年余り。
ど素人の独学なので試行錯誤中ですが、あまりにも面白いので、みんなにも「黄表紙読み」をお勧めしたいと思ってブログをはじめました。

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