ど素人、黄表紙をよむ

独学で黄表紙を読み、悪戦苦闘の成果をさらす。恥知らずの野暮天ですみません。

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人間一生胸算用⑥

人間一生胸算用06

それから蒲焼屋の前を通ると
鼻がかぎつけ、口が食いたがり、
また気をそそのかし心に勧めるのだが、
心が確かであればまず両人の無駄ごとで一向に承知しない。

  心「サアサア、ちっとでも早く家へ帰るがいい。
    酢のコンニャクのと言って、俺までを味な心にするな」

  口「鰻のスジを長焼きにして、煮端茶(にばちゃ)でサッとちゃづりたい

  気「天井が二朱か三朱の出入りだ。 
    のみこみ、のみこみ」 
 
  鼻「番頭さん、お前、そこを“オツをちょっくら”と言いなせえな。
    この匂いを嗅いで堪えられるものか」 



煮端茶:煎じたての香りのいいお茶。

ちゃづる:茶漬けをすする(タクシーに乗る=タクる、みたいな使い方ですね^^)

2朱か3朱:8,000円~12,000円くらい。

のみこみ、のみこみ:納得しなさい


人間一生胸算用⑦

人間一生胸算用07

ある日、無次郎は算用に心つかれて
すやすやと寝入ったが、
目・口・鼻・耳はよい機会と思い、
密かに気をいさめて申した。

 「つまるところ、我々あの様なシワい心に使われているゆえ、
  口はついに塩イワシの片身も食った事なく、
  目はついに乞食芝居の一幕も見ず、
  耳は"けがにへん"という三味線の音を聞かず、
  鼻は火打ち箱で休みその臭いばかり常々嗅いで、
  夢にもおもしろいめにあった事なし。
 
  このうえは、あの心めを追い出し、 
  この体を番頭もちになされたら、
  我々も少しは楽しみも出来ますのに」

…と、口をそろえ鼻をそろえて申しますと、 
さすがの無次郎の体も気は変りやすく、
グッとこの相談にのる。

心は手まくらをして寝ている。
手はまくらにされていながら、
こいつはおもしろくなく、こと洒落てみせる。

 口 「なんとこいつァ、いい法でごぜえしょう」

人間一生胸算用07 京伝アップ


 京伝「さてさて、笑止な事じゃ。
    この国も少し、みだれそめにしだわえ」



けがにへん:調べたが意味が分からなかった(怪我二遍?)。
        どなたか意味をご存知でしたら教えてください m(==)m

火打ち箱:火打石など火をつけるための道具をまとめた箱。
      硝石や硫黄などの臭いがしたと思われる。

みだれそめにし:百人一首に出てくる河原の左大臣の句をもじってる。
         河原の左大臣は恋で心が乱れたが、無状無象国は心をなくして国が乱れる


人間一生胸算用⑧

人間一生胸算用08右 追い出される心

ここに哀れをとどめているのは、無次郎の心である。
すこしの緩みにつけ込まれ、この国の主でありながらも
多勢に無勢、力及ばず、胸のあたりの在城を追い出され、
すごすごと、いずこへと去っていった。

  気「ケチをして、おいらを勝たせた報いだ。
    これで思い知りつこ」

  心「エヽ、残念残念。
    桃栗ざん年、柿八年、俺は無念で出でかねる」

京伝は、いい無駄もあると思ったけれども、
心があまり気の毒だから黙っている。

人間一生胸算用08左 気と耳鼻口

さて、みなみな、望みのままに心を追い出し、心ここにあらざれば、
番頭の気は、誰はばからず気ままをして、
ついに無次郎の体を横領すると、
是れより無状無象国、大いに乱れた。

  気 「ほんに、口にも久しく土用が入りやしない。  
     いつでも寒の内だろう」       

みなみな、気に御歯向きを言う。

  目 「アノようなケチな心を、みた事がござりませぬ。
     あいつは一万年もいきる心でござりましょう」

  口 「わたくしも朔日(ついたち)十五日に、
    ようよう安干物1枚ずつ食べるよりほか、 
     百五十する時もカツオなぞは嗅いだ事もござりません。
     働きのある猫にさえ劣るさ」

  耳 「お前のことをば、近所の息子衆も
     気の効いたお人だと陰で褒めます」



土用:土用のうなぎ=夏の風物。
    うなぎが食えないせいでいつでも冬だ、と文句を言ってる。

御歯向き:おべっか

朔日十五日:満月と新月の日で、江戸では魚介類や野菜の初物の売り出し日にあたる。
         初物はまずお上に献上されてから市中に出回る決まりで、
         解禁日以前に庶民が初物を食べるのはご法度だったようだ。
         そのため、朔日・十五日に初物をいち早く競って買い求めるのが江戸っ子庶民の粋だった。

百五十:冬至から百五十日=西暦で5月20日頃。
       旧暦では卯月のはじめにあたり、
       初夏の衣替え=初カツオが出回るシーズンである。
       初鰹は初物の中でも特に霊験がつよく、750日長生きするといわれていた。


人間一生胸算用⑨

人間一生胸算用09右

気は大勢にさんざん持ち上げられ、無性に気が大きくなり、
ある日、口を袖につれて向島の武蔵屋へ来て、
無闇やたらにおごりまくった。

口は、生まれてから初めてこんな美味いものを食い、酒もやたらに飲んで、
大いに鋭気はぐんぐん違ってきて笹の葉を担いで踊る。

酒を「きちがい水」というのは、これが所以であろうか。

気が、壬生狂言にきつねの憑いたような手つきをして踊れば、
口は、コケが心学を習うように茶碗をたたいて囃す。

  女給 「鯉のあらいも出しましょうか」

  目 「赤ら顔の小娘が呉服屋へ行ったように
     いっそ目移りがする」

人間一生胸算用09左
それから、気はいよいよ気がそれ、
「目にも美しいものを見せ、 
 鼻にも掛け香のあだな匂いを嗅がせよう」と
中ノ丁の夕景色を見せますと、
目・口・鼻、三人よって凡夫の知恵を出し、
気をすすめて、中でイッチ美しい人と思しき花魁を揚げさせにやる。
口はよだれを垂らして見ている。

  鼻がいう「アア、いい匂いだ。百助のところのクコをつけたそうだ。
       ちっと、小菊で鼻をかんで嗅ぐべい。
       今まではチリカミよりほかでは、かまなんだ」

目は正月を三度いっぺんにする気分で、
目のさやを外して眺めている。 



武蔵屋:向島の著名な料亭。鯉料理が名物。
     俳諧や狂歌の会が頻繁に開催されるなど、
     組連の集まるサロン的な使われ方もしていたようだ。
     ちなみにここの座敷で行なわれた「宝あわせの会」というアホ企画から、
     江戸落語が発祥したとのことである。

掛け香:におい袋。調合した香を絹の袋に入れ、女性が身につける。
      吉原では部屋の中にも掛け香が吊るされていた。

中ノ丁:吉原のメインストリート。
      暮六ツ(午後6時)の鐘とともに夜見世が始まるため、
      三味線が鳴り、張見世(女郎が格子の内側に並ぶ)がおこなわれ、
      一斉に賑やかになり、男どもは気もそぞろになった。
      葛飾応為「吉原格子先の図」(←参考に。葛飾応為「吉原格子先の図」)

百助:小間物屋「紅屋百助」と思われる。
     「紅屋百助」は浅草の駒方堂の筋向かいにあり、
     白粉(おしろい)や紅などの化粧品を商っていたようだ。

クコ:クコ油。香料として利用されていた。
     
小菊:廓に置いてある紙花(超高級ティッシュ)。
    小菊紙は茶屋や遊郭の人々へのご祝儀としても利用された。

目のさや:まぶたのこと。


人間一生胸算用⑩

人間一生胸算用10

気は皆にそそのかされ、いよいよ気分まぐれ、 
女郎屋で大洒落にしゃれこむと、
みな、とてもの事に耳をもよびにやり、
面白いお目をさせようと人をやれば、目もさっそくやって来た。

口は、竹むらの上あんを取りにやって、しこたま喰らい、   
目は、廊下をウロウロあるいて美しいやつのすねの白いのをみて迷い、 
鼻は、留め木の香りにうつつをぬかし、
耳は、やたらに延長して芸者の妙音を聞いて楽しめば、
気は有頂天につるしあがって、さらに正体がなくなりました。

  目がいう。「アア、いずれを見ても、艶なそたちだ」

  太鼓持ち「お前さまは、上餡ばっかり召しあがりますね。
       上餡ばっかり五十六は、どうでございます」

  口 「あいたクチへモチとは、これが生写しさ。
     やつがれはおじぎなしに食べ、女郎の帯とシャレやす」

  (芸者)  わたしゃ おしどり よいわいな
         そうじゃ そうじゃ そのきでなければ
         はなされぬ ツンツテレテツトン
 
  耳 「ちっと、かんざしを貸しな。
    よく耳の垢をとって聞こう」

  気 「これ 気をつけろ。誰が俺の耳へ湯をかけた。
     寝耳に水と違って、起き耳に湯は難儀だぞ。
     耳をゆがいて、何に料理する気だ」



竹むらの上あん:吉原にあった上菓子屋「竹村伊勢」の上あん餅。
         竹むらの菓子は吉原名物にもあげられている。
         ちなみに上菓子は武家や金持ちのもので、餡菓子、餅菓子、煎餅などは高級な上菓子だった。
         (対して「駄菓子」「一文菓子」=庶民の日常のおやつ。干し柿、だんご、飴など)

女郎の帯:女郎の帯は前結びで結び目の巨大なので、
      おじぎして料理をいただくことができない。

留め木:香木のこと。これを燃やして衣服に香りを移しておくのが吉原のお洒落。


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野暮天のサチ

Author:野暮天のサチ
江戸のおもしろ文学『黄表紙』を読み始めて1年余り。
ど素人の独学なので試行錯誤中ですが、あまりにも面白いので、みんなにも「黄表紙読み」をお勧めしたいと思ってブログをはじめました。

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