ど素人、黄表紙をよむ

独学で黄表紙を読み、悪戦苦闘の成果をさらす。恥知らずの野暮天ですみません。

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桃太郎発端話説(ももたろうほったんばなし)⑥

06右()

焼け野の雉子、夜の鶴。
子を思う道は一筋というように、舌切りすずめの親鳥は、
子すずめの姿が見えないので、羽の知らせでもいいから聞きたく思い、
仲間のすずめを頼んで、行方を尋ねにでるとは殊勝なことだ。

すずめは迷い子を尋ねるのに、鉦太鼓では出ず、竹をたたいて出るので、
まるで雀踊りと節季候(せきぞろ)のひやわいのような出立だ。

せきぞろは すずめの わらふでたちかな」と
 翁の句も眼前体(がんぜんてい)である。 

(この浜で雀たちは、つづらを見つける)

06左

このつづらは「ここはところも西の海、筑羅が沖」という場所で、
暮れゆく歳のまめ囃子に、
厄払いどもが捕まえた悪魔外道をひとまとめにして、 
深いつづらに押し込めて沖なかへ流したもの。

それがこの浜に吹きつけたのだったが、
「厨子王丸の水入りか、雀の代わりに難破船がきたか」と、
すずめどもが引き揚げて持ち帰った。
 
なんの所詮もないことだが、これが狂言の筋じゃてや。

雀衆  さっさとござれや 
       おそいぞ おそいぞ
       迷子の~ 迷子の~ 
       …ああ少しおなかが、へこつき山の寒ガラスだ。

つづらは若い衆を頼みます。これではつづらすずめじゃ。

 母雀「さては、このアサリにも、せがれめはホラノカイのう。
    このツキヒガイ、ナデシコガイでそだてたものを、
    サクラガイの花を散らし、このようなシジミをミルクイとは、
    ホタテガイもないことじゃ。 
    わしは片ときもワスレガイぞや。
    "遠い親類より 近きタニシ"じゃ。
    サザイはあるまいが、タイラキながら、
    貴様たちもマテガイのないようにたずねて下されや。
    たとえクシガイじゃと言われても、アカガイ、アカガイ、大事ない。 
    しかしハマグリになつたと聞けば、
    シオフキのこうべにカキ宿ると、
    御方便で一度はアワビで下されようカイ」

 父すずめ「松浦佐用姫は石になったが、わしが息子はハマグリになったとはのう」

06両方(小)
(↑大きい画像で見ると迫力がある絵です^^)



【注】

羽の知らせ:「虫の知らせ」にかけている。

ひやわい:軒どうしが狭くて日が当たらないところ。

節季候:厄払いのお囃子をやって米や物品をもらう、門付け芸人。
     師走(12月)になると割れ竹や四つ竹,小太鼓,拍子木などを鳴らし,
     女の三味線に合わせてにぎやかに囃して歩いた。
     節季候 『人倫訓蒙図彙』7巻より 著/蒔絵師源三郎(他)

「せきぞろは すずめのわらふ でたちかな」
    松尾芭蕉の句のパロディ。元の句は「節季候を 雀の笑う 出立ちかな」。

眼前体:目で見たそのままに詠むタイプの俳句           

筑羅が沖:日本と唐土(中国)との潮境にあったとされる、架空の海。神の世界と人の世界との境界らしい。

まめ囃子:厄払い芸人のお囃子。
              「まめに暮らせるように」と願いをこめた、おめでたい内容。

厄払い:節季候と同様の門付け芸人。
     節分と歳の暮れに、厄払いの芸をしにやってくる。

水入り:歌舞伎の演出で、役者が本物の水につかるシーンのこと。

松浦佐用姫:九州の唐津にいたとされる姫。
       新羅との戦で恋人が出征したが、別離に耐えられず七日七晩泣き続けて石になった。

さっさとござれや~:節季候の囃子文句を替え歌にしている。
       節季候の囃子文句はこんな感じ↓らしい。
        エ、節季ぞろ、エ、節季ぞろ
         さっさござれや さっさござれや
         せきぞろ エッ、せきぞろ
         まいねんまいねん、毎とし毎とし、
         旦那の旦那の、お庭へお庭へ、
         飛びこみ飛びこみ、はねこみはねこみ
               
へこつき山の寒ガラス:「腹がへった」という意味の地口。            

つづらすずめ:ふくら雀の駄洒落

※貝の駄洒落(17連発)
カタカナになってる部分が貝の名前です(原文はすべて平仮名で表記)。
どんな駄洒落になってるか、ぜひ考えてみて下さい^皿^

桃太郎発端話説(ももたろうほったんばなし)⑦

07両方

親すずめは、子すずめがハマグリとなったのを見つけだして連れ帰り、
針や按摩でいろいろやったが、あたため灸も届かないので
すずめ医者が指図して 
「とにかく強くあたためるに及ぶものはなし」と 
松かさを集め、焼きハマグリにした。

するとハマグリがチウチウと鳴いたと思うと、ぱっくりと口をあいて、
「蜃気楼の尻小玉」とでも言いそうな気を吹き、
中から舌切りすずめが飛び出ると、
親すずめ、うれし涙のすずめ泣きをするのも道理である。

医者すずめ、いわく
「くすり瞑眩(めんけん)せずんば、その病、癒えずといえり」
  “秦の泰伯 狩に出でて 咸陽に至り
   流火 有り下り 化して 白き雀と為る”
 これも火のせいによって、元のすずめと化す。
 はて、よう似たこの場のありさまじゃなァ」

親雀「ヤレヤレうれしや。貝の柱でひたいでも打ちはせぬか」

仲間のすずめも気の毒に思い、
千垢離(せんごり)をしてすずめの宮に祈ったので、
すずめの千垢離 実のひと声」という言葉は、この時から始まったのだ。

親すずめ「さてさて、大きに苦労したことじゃ。
     もうこれからは、ちっとも桑名の焼きハマグリじゃ」



【注】
尻小玉:人間の尻の近くにあると言われている魂の塊。
     溺死した人は河童にコレを抜かれたのが原因と考えられていた。

瞑眩:東洋医学で、治癒前に一時的な熱・下痢・発疹などが出ること。いわゆる好転反応。

秦の泰伯~:北宋代初期の百科事典である『太平御覧』の、「白雀」の項目に出てくる一説。   

千垢離:川水に浸って身を清め、神仏に願をかけること。

「すずめの千垢離 実のひと声」:「雀の千声 鶴のひと声」という諺にかけた駄洒落。

桑名の焼き蛤:「その手はくわないぞ」という意味の地口だが
       ここでは文字通り、焼き蛤を食えないという意味も掛けている。
       ちなみに桑名市は三重県。伊勢参りの人々が休憩する宿場町があり、
       焼きハマグリが名物だったようだ。

桃太郎発端話説(ももたろうほったんばなし)⑧

08両方

   舌切りすずめ お宿はどこじゃ ちょっちょっ ちょ
   祝儀にするめ 結納はむこじゃ
   下着にすみれ お江戸は派手じゃ

始め終わりのないものは、確かなものではないとかや。

正直夫婦は、舌切りすずめの行方をたずねに出ていたが、
思う心のまことが届いて、すずめの隠れ里にたずねあたると、
すずめどもは正直夫婦の大恩に報いようと、心のたけをつくしてご馳走し、
帰りにひとつのつづらを、土産にあたえた。
正直夫婦は欲のないものなので、軽いつづらをもらう。
このところは、子ども衆がよく御存知である。

  正直爺「"すずめば都"とはよくいつたものじゃ。
     山の中にもこのような座敷があるとは」
 
  正直婆「これは、すごいご馳走じゃ」
 
  舌切りすずめ「おふたりさまの御恩は、忘れませぬ」

すずめども、ご馳走にお家の踊りをはじめる。

  すずめ衆  おいらでせ がってんじゃ

  すずめ女中「ちと、お替えなされまし。
        お汁はすずめ瓜、お焼き物はすずめ焼きでござります」



【注】
すずめばみやこ:「住めば都」の駄洒落。

おいえのおどり:お家芸の雀踊り。江戸時代の祭礼の練り物として始まった風流踊りで、
        編み笠をかぶり、雀の模様の着物を着て奴姿で踊った。
        歌舞伎にも取り入れられたため、かなり流行ったようだ。

すずめうり:瓜科の1年草。ツタに飴玉くらいの大きさの小さな瓜がなる。

すずめやき:小鮒などの小魚に甘辛いタレをつけて、串に刺し焼いたもの。
      小魚を開いた形や串に何匹も刺した様子が、枝にとまる雀の姿に似ている。

桃太郎発端話説(ももたろうほったんばなし)⑨

09右(小)

正直夫婦は軽いつづらをもらって帰り、
中を開いてみれば、多くの宝物が詰めてあった。

すずめの宝というだけに
竹のこの隠れ傘、笹の葉の隠れ蓑、竹屋町の布で張ってある打ち出の小槌、
そのほか、笹づる布の巻物など、世に稀なる品々を入れおいてあった。

これ、子ども衆のお目覚ましや、むかし話の戯むれごとながら、
陰徳あれば陽報ある」のたとえはよく知られている。

慳貪婆、このていを見てうらやましがる。
 
  慳貪婆「あいつらは、うまい事をしおつた
       なんとしても、こっちへ寄こさしてこませたいものだ。」
      「断りいうて、返さしゃれぬか」
      「小槌にぬかりはないものを、このような痛事をしてくれては
       まったく迷惑じゃ」
      「このように宝を持つとは、まったく"ふくら雀"ではのうて
       きつい"福者すずめ”ときた」

09左(小)

となりの慳貪婆は、欲深き心からうらやましく思い、
同じように、すずめの隠れ里へたずねて来て、
「つづらをもらいましょう」と言う。
こんどは、すずめもあまりご馳走をせず、
仲間のうぐいす餅で間に合わせる。

ウズラのちちつかいではなくて、 
ツヅラのご出会に見えたのじゃな。

  母雀「お茶あがりませ」

  慳貪婆「放下師の小刀ではないが、
       のみこみ山なら早うつづらをもらうて、帰りましょ。
       わしは達者だから、ずいぶん重いつづらが良いてや」

  舌切りすずめ「まったく厚かましいおばばじゃ」



【注】
すずめの宝というだけに~:本文中に出てくるお宝を、まとめて解説してみました。
                   こちらを参照されたし⇒プチ解説「吉祥文様と宝物

陰徳あれば陽報ある:諺。人知れず善行をする者には、目にみえて良い事が返ってくる。

福者すずめ:福者=幸せな人、福人。「ふくら雀」とかけている。

ウズラのちちつかい:調べたが意味不明。江戸時代の慣用句か?

放下師の小刀:のみこむ=合点する、という意味の地口。
        放下師は大道芸人の一種で、烏帽子をかぶり、
        小切子(こきりこ=竹の筒に小豆を入れた楽器)を打ち鳴らして
        滑稽な歌舞、曲芸やジャグリング、手品などを行った。
        代表的な出し物に小刀を飲み込む芸があったらしい。

のみこみ山:合点する。


桃太郎発端話説(ももたろうほったんばなし)⑩

10右(小)

君子は人の幸福を喜んで、うらやむ心はない。
おのれの目的を達せんと欲すれば、まず人を達せようとするものだ。
小人(しょうじん)は人の幸福を憎んで、自分はより貪ろうとする。
このせいで善を遠ざけて、賢をにくむ。

慳貪婆の欲の張りつづらは、
罪の重いこと、つづらより甚だしい。
心の欲の背負い紐につながれて、
罪をつづらとともに負っているのだ。

子ども衆よ、ここらがよい目のつけどころじゃが。
がてんか、がてんか。

  慳貪婆「まったく重いつづらだ。
      何でもこの中の宝を瀬しめうるしとでて、
      どらやきさつまいもの食い飽きをしましょう」

舌切りすずめは「おとといきやれ」と
おばばをゲチゲチに取り扱って、あとへ塩をまく。

  慳貪婆「なんと、おれの姿は『袖鏡』の庵室の段、軍助もどきと見えようがや」


10左(小)

慳貪婆は重いつづらを持ち帰ったが、一体このつづらは、
筑羅が沖で拾った悪魔外道を閉じ込めておいたつづらなので、
蓋をあけるまでもなく、たちまち中よりメリメリとつづらを壊し、
異形の鬼神あらわれ慳貪婆を宙につかんで、
鬼ヶ島へ飛んでいくとは、とんでもない次第である。

『宇治拾遺』にこんな一節がある
 「今はむかし、女あり。
 すずめのケガしたるを養いて放ちければ、
 恩を報うため、ひさごの種をくわえ来たる。
 その種を植えたるに、ひさご多く出きて、みな内に白米あり。
 となりの女、これをうらやみ、無理にすずめにケガさせて養い放ちけるに、
 そこのすずめもひさごの種をくわえ来たる。
 植えければ、はたして出きにけり。
 さて、ひさごの内より毒虫おおくいでて、
 かの女をいたく刺しける」

このつづらも、例のふくべより出てきたという話だ。
もの羨みはするもんじゃない。

  鬼「ももんがぁなんと言うような、怠けたことではない。
    アァ、ツノもねえ。

  慳貪婆「こう吊るしあげられては、
      そっちの鬼身よりこっちのこめかみが、いた印いたいのねと来たわ。
      アァ、助けたまえ、助けたまえ」

  鬼「なんと、凄まじかろうがや」



【注】
『袖鏡』の庵室の段
    芝居や浄瑠璃の演目『菊池大友姻袖鏡』(きくちおおとも こんれいそでかがみ)のこと。
    庵室の段で、姫が中に入り隠れているつづらを、
    家来が背負って立ち回りするシーンがある。
    姻袖鏡(こんれいそでかがみ)庵室の段
   (↑昭和3年出版 『日本戯曲全集』第28巻歌舞伎編 『菊池大友姻袖鏡』より)

宇治拾遺:宇治拾遺物語の『腰折れ雀』のお話。
       『腰折れ雀』の強欲婆さんのひょうたんから、鬼の葛籠は出てきたらしい。

ひさご:夕顔。ひょうたん。

ふくべ:ひょうたんの中をくりぬいて作った器。

ももんがぁ:妖怪ももんがぁ。
       白い肉塊のようなものに短い腕脚が生えており、
       四つんばいで動き、小さな目と鼻がついている。らしい。
       妖怪ももんがあ 
      (↑『しん板 化物尽し』より 「ももんがぁ」の図  画/歌川芳盛)

       

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野暮天のサチ

Author:野暮天のサチ
江戸のおもしろ文学『黄表紙』を読み始めて1年余り。
ど素人の独学なので試行錯誤中ですが、あまりにも面白いので、みんなにも「黄表紙読み」をお勧めしたいと思ってブログをはじめました。

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