ど素人、黄表紙をよむ

独学で黄表紙を読み、悪戦苦闘の成果をさらす。恥知らずの野暮天ですみません。

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方言競茶番種本⑦

■呑太夫とおなべ

おなべと猫

後はひっそり大水の、出たる後のごとくにて、
踏みあらしたる台所、おなべがひとり掃き掃除。
ちゃんとしまって暮れ六ツ時、行灯に火をともしの影。

  呑太夫 「ヲヽ、いた/\」
 
  おなべ 「誰じゃいな、わたしがお尻をつめったは」

  呑太夫 「ヲヽ、おれじゃ/\」

と呑太夫、ほかに聞く人はなし。

呑太夫の顔アップ

  呑太夫 「コリャおなべ。
       そちのこのムッチリとした、美味そうな尻つきに、
       思いこんで口説けども、今もって返事せぬはどうした心じゃ。
       聞きたい」

と、顔に似合わぬ猫なで声。
しなだれかかれば、おなべはわざと飛び退き、

  おなべ 「旦那さんとしたる事が、あられもないことおっしゃります。
       焼もち深い奥さまへ、聞こえましてはわたしの難儀。
       お許されて」

と、言いつつも、否にはあらぬ相模女(さがみおんな)
呑太夫はうぢうぢする手をなお引き締め、

  呑太夫 「ソリャそっけない。
       コレおなべ、とぢ蓋となりたい身どもが心、
       なんの女房へ知れたとて、へちまの皮のだんぶくろ
       底をはたしき心のたけ、これじゃ/\」

と手をあわせ、拝みくどけば

  おなべ 「エヽ、勿体ない。それほどにおっしゃるもの、
       わたしも嫌では内証の、小遣いそのほか衿袖口(えりそでぐち)、裾廻しのきれ
       朝鮮べっこうの櫛・(こうがい)、   
       黒塗りの下駄、ゆもじまで、買うて下さりますならば、
       いかにも惚れた旦那さま、わしゃ可愛い」

と、いだき合う、顔は赤らむほうべたに、臭気のほどを顕わせり。
呑太夫ぐにゃりとなり、

  呑太夫 「しからば後とは言われぬ弾み、かく相談の決まりし上は、
       つい、ちょこ/\と、今ここで」

  おなべ 「イエ/\、その相談、できたからのわたしが趣向、コレこう/\」

と囁けば、

  呑太夫 「ムウ、そんなら今宵そもじの寝所へ。うまい/\。
       かねて夜這いと定めたれば、この次の間の部屋を越し、
       しのび入るには中の間の、障子開くればそなたの寝所。
       ここを探って、こう這って…」

と、呑太が悦び間抜けながらも、ぬからぬおなべ、

  おなべ 「イエ/\、それは僻事(ひがごと)、ならん。
       根継ぎ前なるこの家の中、障子ふすまも皆ひずみ、
       妻戸ゆがんでガタピシ、開くるにギシつき、
       急きこんで外さば、音して目を覚まさんは、いかに/\」


  呑太夫 「ヲヽ、それにこそ手便(てだて)あり、懲っては思案にあたわずと、
       小便よりのかえるさ、思い付いたる泉水のしたたる水。
       妻戸をあけるわが工夫、仕様をこれにて見せ申さん」

と、身構えして立ち上がり、さしもに固いふすま戸も、
柱根といえばガッタリと、ひずみしところ見すましてそっと寄り、
鴨居たわむは弓同然。

  呑太夫 「このごとく土瓶の中に水を入れ、ぎしつく敷居に流しかけ、
       そっくりちっくり開ける時は、まずこのやうに、ふわつきし、
       床板踏めど、ぎしつかず、ずるりは土瓶の水のちから、
       敷居にながれて溝ゆるみ、障子残らず、する/\/\」

おなべはおかしさに笑い、

  おなべ 「ハヽア、したり/\。
       そんなら後にだんな様、かならず待っております」

と、しめし合わせてお奥と口、別れてこそは入りゆく。



相模女:相模国=現在の神奈川から、江戸に奉公に出た女性たちのこと。
       当時、相模女は好色者が多いという俗説があった(ひどい^^;)。

へちまの皮のだんぶくろ:へちまの皮=つまらないもの。
             だんぶくろ=布製の大きな荷物袋。
             ここでは女房のお酌を、
             少しも気にする価値のない、へちまの皮の荷物袋だと言っている。

底をはたきし:直前の「だんぶくろ」にかけて、
        袋の底をはたいた本心だ、と言ってる。

嫌では内証の~:「嫌ではない」と「内緒の小遣い」をかけている。

衿袖口・裾廻しのきれ:和服の衿や袖を別の布で二重に仕立てて
            重ね着風に仕立てるのがおしゃれだった(今でも重ね着風の服ってありますね)。
            それに使う布を買えとねだっている。

:かんざしに似た平たい形の髪結いの道具

ゆもじ:腰巻き。下着のひとえ。

僻事:道理に合わない。間違ってる。

根継ぎ:木造建築で傷んだところを取り除き、新しい材で継ぎ足すこと。

妻戸:家のはじっこにある開き戸。
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野暮天のサチ

Author:野暮天のサチ
江戸のおもしろ文学『黄表紙』を読み始めて1年余り。
ど素人の独学なので試行錯誤中ですが、あまりにも面白いので、みんなにも「黄表紙読み」をお勧めしたいと思ってブログをはじめました。

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