方言競茶番種本⑤
■太五助の切腹
太五助 「さてもそれがし、仰せをうけ、
豆腐を買い求め立ち帰らんとせし所に、
いづくよりかは来たりけん、鳶(とんび)一羽、舞い下がり、
豆腐を目がけるその有様。
"シヤ、こしゃくな"と身をかわし、
小石をとって打ちつけ/\、いどみ争うそのうちに、
四方を見れば、これはいかに。
いつの間にか二羽三羽、四ツ谷鳶を初めとして、
しわの山の尻きれとんび、壇ノ浦の八艘とび、
黒とび赤とび横っとび、
爪研ぎすまして、それがしに、輪をかけてこそ取り巻いたり。
すわ、一大事と根(こん)限り、命限りと支えけれども、
多勢に一人かなわばこそ、あたまも顔もかきむしられ、
無念ながらも小半丁、つかみひしがれ候」
と、大息ついで物語る。
太五助の話すうちより呑太夫、青筋出して大きにせい立ち、
呑太夫 「ヤア、不覚なり太五助。
先刻の広言にも似ず、
とんびに豆腐を茶々むちゃくちゃにされながら、
生づらさげて立ち帰ったる、うつけ者。
目通り叶わぬ、すさりおろう」
と、有り合わせた摺粉木(すりこぎ)とって打ち付けられ、
身のあやまりに太五助は、さしうつむいて居たりしが、
太五助 「ヲヽ、そうじゃ。
この摺粉木にて腹を切るが、お旦那へ申し訳」
と、両肌おしぬぎ、既にこうよと見えければ、
おなべは慌て、すがり付き、
おなべ 「またしゃんせ/\」
太五助 「イヤとめるな、はなせ/\」
おなべ 「イヽエ、はなさぬ」
太五助 「さてしつこい、主人へ申し訳の此の切腹、何ゆえ思いとどめる」
おなべ 「イエ/\、腹きらしゃんすを止めはせぬ。
今お味噌をするゆえ、このすりこ木が入用じゃ」
と、ひったくられて太五助が、それやってはとむしゃぶりつけば、
呑太夫、はったと睨めつけ、
呑太夫 「ヤア間抜けの太五助、汝が腹きりたるども、
なんの糸瓜(へちま)にもならぬ事、
それよりかは我にひとつの功をたてよ。
その時は許しくれん」
太五助 「ハヽッ、有難き旦那のお言葉、死なんとまで覚悟せし太五助が一命、
お助け下さる上は、いかにもこの身の御恩返し。
ひとつの功を立てたる上は…」
呑太夫 「ヲヽ、いうにや及ばず。くどい/\。
…が、それよりも差し当たって、
小半丁の豆腐が延引に及びては、横好殿へ馳走にならず。
ハテ、どうがな…」
と思案の内、下手の横好出て来たり。
・四ツ谷鳶:四ツ谷で作られていた鳶の形をした凧。
これを四羽の鳶とかけて洒落ている。
・しわの山の尻切れ鳶:よくわからなかった。
「しわ」は紫波の山と「四羽」をかけている?
「尻切れ鳶」は「尻切れトンボ」と同意語。終りがはっきりしないこと。
・壇ノ浦の八艘とび:いわゆる"義経八艘飛び"のこと。
壇ノ浦の戦いで、平教経に襲われた源義経が
船から船へと飛び移り八艘の彼方に飛び去ったという伝説。
「とんびと関係ないがな!」と突っ込みたい洒落。
太五助 「さてもそれがし、仰せをうけ、
豆腐を買い求め立ち帰らんとせし所に、
いづくよりかは来たりけん、鳶(とんび)一羽、舞い下がり、
豆腐を目がけるその有様。
"シヤ、こしゃくな"と身をかわし、
小石をとって打ちつけ/\、いどみ争うそのうちに、
四方を見れば、これはいかに。
いつの間にか二羽三羽、四ツ谷鳶を初めとして、
しわの山の尻きれとんび、壇ノ浦の八艘とび、
黒とび赤とび横っとび、
爪研ぎすまして、それがしに、輪をかけてこそ取り巻いたり。
すわ、一大事と根(こん)限り、命限りと支えけれども、
多勢に一人かなわばこそ、あたまも顔もかきむしられ、
無念ながらも小半丁、つかみひしがれ候」
と、大息ついで物語る。
太五助の話すうちより呑太夫、青筋出して大きにせい立ち、
呑太夫 「ヤア、不覚なり太五助。
先刻の広言にも似ず、
とんびに豆腐を茶々むちゃくちゃにされながら、
生づらさげて立ち帰ったる、うつけ者。
目通り叶わぬ、すさりおろう」
と、有り合わせた摺粉木(すりこぎ)とって打ち付けられ、
身のあやまりに太五助は、さしうつむいて居たりしが、
太五助 「ヲヽ、そうじゃ。
この摺粉木にて腹を切るが、お旦那へ申し訳」
と、両肌おしぬぎ、既にこうよと見えければ、
おなべは慌て、すがり付き、
おなべ 「またしゃんせ/\」
太五助 「イヤとめるな、はなせ/\」
おなべ 「イヽエ、はなさぬ」
太五助 「さてしつこい、主人へ申し訳の此の切腹、何ゆえ思いとどめる」
おなべ 「イエ/\、腹きらしゃんすを止めはせぬ。
今お味噌をするゆえ、このすりこ木が入用じゃ」
と、ひったくられて太五助が、それやってはとむしゃぶりつけば、
呑太夫、はったと睨めつけ、
呑太夫 「ヤア間抜けの太五助、汝が腹きりたるども、
なんの糸瓜(へちま)にもならぬ事、
それよりかは我にひとつの功をたてよ。
その時は許しくれん」
太五助 「ハヽッ、有難き旦那のお言葉、死なんとまで覚悟せし太五助が一命、
お助け下さる上は、いかにもこの身の御恩返し。
ひとつの功を立てたる上は…」
呑太夫 「ヲヽ、いうにや及ばず。くどい/\。
…が、それよりも差し当たって、
小半丁の豆腐が延引に及びては、横好殿へ馳走にならず。
ハテ、どうがな…」
と思案の内、下手の横好出て来たり。
・四ツ谷鳶:四ツ谷で作られていた鳶の形をした凧。
これを四羽の鳶とかけて洒落ている。
・しわの山の尻切れ鳶:よくわからなかった。
「しわ」は紫波の山と「四羽」をかけている?
「尻切れ鳶」は「尻切れトンボ」と同意語。終りがはっきりしないこと。
・壇ノ浦の八艘とび:いわゆる"義経八艘飛び"のこと。
壇ノ浦の戦いで、平教経に襲われた源義経が
船から船へと飛び移り八艘の彼方に飛び去ったという伝説。
「とんびと関係ないがな!」と突っ込みたい洒落。
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