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ど素人、黄表紙をよむ

独学で黄表紙を読み、悪戦苦闘の成果をさらす。恥知らずの野暮天ですみません。

桃太郎発端話説(ももたろうほったんばなし)⑫

12両方(小)

土も 木も わが大王の国なれば 
 いづくか鬼の 宿と定めん
(土も木も、国にあるものはすべてわが大王のものだから、
 どこに鬼の宿を定めよう)

…と、紀朝雄(きのともお)が詠じたのも、理由のあることだ。

頭にツノをのせ虎の皮のふんどしは締めなくとも、
人の道にそむく者は、悪魔とも鬼ともなるのだ。
「鬼界ヶ島に鬼はなく、鬼は都にあるぞかし」という
女護の島』の文句も、もっともである。

ところで、慳貪婆は無理な欲心から
おのれの心の鬼につかまれて、ついに鬼ヶ島の仲間入りをした。

鬼の留守には洗濯してくらし、
おのれの心のアカを落とすべきとも気もつかず、
ますます欲心が増長して、
とにかく正直夫婦が宝をえたことを心憎く思い、
鬼の大王へ進言して、正直爺の宝物を盗ませようとたくらむ。

大胆不敵な成り行きである。

12慳貪婆アップ

慳貪婆「あの正直めは一角(いっかど)の宝をせしめて、
    今はまぶな金持ちになりおりました。
    わしには、お前がたを詰め込んだつづらをあてがって、天井を見せました。
    いやはや、腹のたった次第さ」

鬼大王「そんなら何がなんでも、
    神楽の岩戸開きと出かけねば、ならずの森の大天狗。 
    と金に成り上がる吉瑞だ。
    なんにも、くろ鬼することはねえ。
    放下師の小刀細工どころではねえ、
    のこぎり、かんな、斧、まさかり、
    何でもかんでものみこみ山の墨つぼだ!」
  
慳貪婆ァ「"鬼ひとくち"というだけに、のみこみのよい衆じゃ」

鬼たち「まず、前祝いに四方の瀧水をもとめよう」
   「そいつは、ぶっちめ印とせずはなるまい」




【注】
「草も木も~」:本来は、天智天皇の家臣の紀朝雄が鬼を追い払うために
    「草も木も我が大王の国なれば いづくか鬼の棲なるべき」
     (草も木も、国のものはすべて我が天皇のものだから
      鬼の棲むべき場所はどこにもない)という歌を詠んだ。
     しかし、ここでは「大王」が天皇ではなく
     鬼の大王にすり変わっているというギャグ。
          
女護の島:浄瑠璃や歌舞伎の作品『平家女護島』のこと。作者は近松門左衛門。
         二段目切の「鬼界が島」の場面が有名。

鬼の留守には洗濯して:ことわざ「鬼の居ぬ間に洗濯」とかけている。

ならずの森の大天狗:「ならず」「ならぬ」という意味の地口。

吉瑞:よいことが起こる前兆。めでたいしるし。

くろ鬼:「苦労」と「黒鬼」をかけている。

放下師の小刀:「のみこむ(=合点する)」という意味の地口。
   放火師は大道芸人の一種で、ジャグリングや小刀を飲み込む手品をやったりもした。

のみこみ山:「のみこむ(=合点する)」という意味の地口。        

鬼ひとくち:鬼がひとくちで人を食うこと。

ぶっちめ印:奪い取る。手に入れる。

※なお、作品中に出てくる地口(江戸の洒落ことば)については
 後日まとめてプチ解説します。
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野暮天のサチ

Author:野暮天のサチ
江戸のおもしろ文学『黄表紙』を読み始めて1年余り。
ど素人の独学なので試行錯誤中ですが、あまりにも面白いので、みんなにも「黄表紙読み」をお勧めしたいと思ってブログをはじめました。

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