ど素人、黄表紙をよむ

独学で黄表紙を読み、悪戦苦闘の成果をさらす。恥知らずの野暮天ですみません。

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桃太郎発端話説(ももたろうほったんばなし)③

03右

そうして実方卿は正直夫婦の情けの桃で、
しばしの飢えをしのぎ、また行く先におもむいていったが、
この程の疲れにはご様子がいままでと違い、
道のかたわらに病み伏してしまわれた。  

「懐かしき京の空は雲とのみか」と眺めやり、
つれない命を嘆き、 
このようにみちのくの土になるとも、
華の京(みやこ)が慕わしく、
涙にむせび泣いていた。

このとき実方の朝臣は、
幼いときの親の恩の深かったことを思い出して、
このように歌を詠まれた。

 「なくとだに おやはくすりの きりももさ 
  さしもしかりな すゆる思いは」
 (泣くだけで 親は薬にと 桃を切る
  桃を据える思いは それほどのものだ)
  
この歌は『道化百人一首』に載っている。

  実方「おれの姿は、鉄拐仙人が餓鬼道へ落ちたのかという扱いだ」

   アアラ みやこ こいしやナァ 
   ドロンドロン ドロドロドロドロ…


しかし、ちょうど傍らの一叢(ひとむら)茂っている竹やぶに、
雀があつまり巣について卵を温めているのを見ると、

 実方「私はこの場所で死んでしまっても、一念、雀になって京にのぼり、
    台盤所(だいばんしよの)の米を食おう」

と、こころに観念、観念な
雀のたまごと実方卿の一念とが合体して、
一羽のすずめと化した。
これが「実方雀」と申す話のいわれである。

(そして竹林の中では…)

03左


 父雀「御すずめご様もお健やかで、おめでたい詮議でござる」

 叔母雀「おふくらさま、まあまあ奥の竹縁でささでもあがりませ。
      鯛の味噌酢を申しつけました」

 祖母雀「よいお子やの」


(↓おまけ。実方の化身すずめのアップ。かわゆい☆)
03すずめアップ





【注】
「道化百人首に~」:うそです、載ってません^^;
        でも『道化百人一首』自体は実在する本で、
        小倉百人一首のパロディ作品を掲載した狂歌集。
        本文中の短歌の元ネタは『小倉百人一首』の51番、藤原実方の歌。
        「かくとだに えやはいぶいきの さしも草 
         さしも知らじな もゆる思ひを」

鉄拐仙人:李鉄拐。中国の代表的な仙人のひとりで、
      物乞いの姿をして鉄の杖をついていたという。

台盤所:宮中や貴族の家の台所。「だいばんどころ」ともいう。

実方すずめ:陸奥国(東北)から京に戻ることなく死んだ実方の怨念が、
       雀に化身して京に戻り、
       内裏(宮中)の食物や農作物を食い荒らすという伝説。
       詳細はwikipedia 「入内雀」の頁を参照されたし。

おふくらさま:ふくら雀+おふくろ様=おふくら様

竹縁:竹を張った縁側。
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桃太郎発端話説(ももたろうほったんばなし)②

慳貪婆と実方。婆の形相がすごい

その頃、中将実方(ちゅうじょうさねかた)という人が天皇の怒りをこうむり、
みちのくの方へさまよって来られた。
そうでなくても旅は憂きものなのに、
実方卿は歩きなれない山坂と飢えに苦しんでいたので、
慳貪婆の家に立ち寄り、食物をお求めなさった。

しかし慳貪婆は、
もとより情け容赦のない者なので、
食べ物を差し上げず、
気の毒にも追ったててしまうとは、不敵なことだ。

実方は
「こう、腹がへりま大根ときては、ふと印といわれても
 あとへもさきへも行くことは、ならずの森のみそさざい」と
 ひとりつぶやいていらっしゃる。

慳貪婆「こっちのがにっちもさっちもいかず
    てんやわやときているものを、クソいまいましい。
    まったく内裏雛の店(たな)さらしと来たわ。」 
  
正直な夫婦はこのていを見て、お気の毒に思い、
実方をわが家にともなって
色々と労わりの言葉をかけるとは、優しいことだ。


正直夫婦に桃をめぐんでもらう実方

正直夫婦「なんぞ差し上げたくはございますが、
     東(あづま)の果ての山ときておりますので
     ひきの屋のどらやきさつまいもや、四方の瀧水(よものたきすい)というような場所も、
     なしの切り口という具合です」
   
    「これは、せどになった桃でございます。
     これでもお持ちになって飢えをおしのぎなされませ。
     まったく、おいたわしや、おいたわしや」

うまいももや かわいのももやとは、
故人はくえんのお定まりかえ。

 実方「これはまったく美味そうな桃じゃ。
    しかし大の痛事(いたごと)、近年の大当たりと来たわ」




【注】
中将実方:藤原実方。平安時代の貴族で有名な歌人。
       歌についてのもめごとで天皇の怒りをかい、陸奥守として東北に飛ばされた。

「腹がへりま大根ときては…」:高貴な公家がこんな汚い地口を使ってるというギャグ。
   腹がへりま大根ときては=腹がへったときては
   ふと印といわれても=図太い人だと言われても
   ならずの森のみそさざい=できない

内裏雛の店さらし:売れ残った内裏雛。

「ひきのやのどらやき~」:この下りは要するに、
             田舎だから洒落た美味い食べ物も銘酒もない、と言ってる。

どらやき さつまいも:美味しいものを表す地口。
            「ひきのや」はおそらく実在した店の名前であろう。

四方の瀧水:江戸神田和泉町の酒屋、四方(よも)久兵衛の銘酒「瀧水」。
       四方久兵衛では赤味噌も販売していたらしく、
       一杯飲むことを「鯛の味噌吸、四方のあか」という地口も流行った。
       ちなみに四方九兵衛はいまも16代目が赤坂で営業してるようだ。
       (しかし江戸時代の「瀧水」はブレンド酒だったようで、現在は販売していない。残念☆)

なしの切り口:「なし」と「梨」をかけた洒落。
        「梨の切り口」は家紋などによく使われる柄の名前(↓これ)。
         梨の切り口の家紋
うまいももや かわいのももや:桃の美味しさと桃売りの売り声と掛けている。
                文脈的に歌舞伎の台詞とも掛かってるのかも?

故人はくえん:歌舞伎役者の4代目市川団十郎(俳名・柏莚)と思われる。

痛事:痛手。非常につらく困ったこと。

桃太郎発端話説(ももたろうほったんばなし)①

『桃太郎発端話説』
1792(寛政4)年
作:山東京伝
画:勝川春朗(のちの葛飾北斎)
版元:蔦屋重三郎

ここをクリックすると、全頁まとめて読めます。
※本文中のアンダーラインは訳注です(脚注はページ下部に薄青色の字で書いてあります)。
※画像はクリックすると大きくなったりします。




正直夫婦の暮らし

昔々のことだとさ。

みちのくの片すみに、じじいとばばあとがあったとさ。
夫婦ともにうんと正直なもので、仮にも悪い心をもたず、
哀れみふかい者で、飼い鳥をあきなって生活していた。

けれど、命あるものを飼うのも大きな罪なので、
商売の道に外れていることを嘆きながら、
常に物事に情けをかけて暮らしていた。

たとえ話の節では、猿と犬は仲の悪いものだけれども、
正直夫婦の誠実さから飼われる者まで和順して、
狆(ちん)と猿はとりわけ仲良くし、
雉などはこの家にぴったりハマッていた。

どうしてお婆よ、
焼け野の雉(きぎす)、夜の鶴、
畑の里芋、むつのハラコ
を思わぬものはないというのに、
こちらはこの歳になって子どもがないというのは、
まったく心細いことではおぢゃらぬか。

 正直爺「おばばや、放し鳥ならば損をしても売ってやるが良いぞや」


けんどん婆ァ

その隣りに、ひとの洗濯などして生計をたてている、
やもめ暮らしの慳貪(けんどん)ばばあがあった。
隣りの正直なあくぬき夫婦に似ず、色黒く、骨太く、アクはたくさん、
欲で〆こむひぼかわのうんどん愚鈍な生まれで、
つねにワサビおろしの目にカドをたて、イヤミからみが得手もの。
おろし大根ふと印、唐辛子のふさふさしいお婆である。

 慳貪婆「今日は天骨(てんこち)もない、よい天気じゃ。
     とかく、てんやわやの灰汁でなくては貧乏世帯のアカは落ちぬ。
     真面目にやっては、間尺に合わぬてや」

全体像。声が届くようなお隣りんさん同士です。
↑全体像。声が届くようなお隣りさん同士です。




【注】

飼い鳥:カナリヤ、文鳥などの小鳥。

焼け野の雉子 夜の鶴:「鳥でさえ、子を思う親の情けは深い」という意味の慣用句。
                 「畑の里芋 むつのハラコ」はギャグ。

慳貪:けちで欲が深く、無愛想で冷たいこと(「つっけんどん」の語源)

あくぬき:灰汁抜きしたように色が白いことと、「悪ぬき」な人柄をかけている。

ひぼかわ:ひぼかわうどん。いまでも秩父方面で食べられている。
      江戸っ子至上主義の京伝が野暮な田舎者を馬鹿にしてる?^^;

ふと印:ふとい。

ふさふさしい:厚かましい。唐辛子の「房」とかけてる。

天骨も無い:とんでもない

ご挨拶の口上

(とざい、とーざいー)

このブログはわたくし「野暮天のサチ」が
ど素人ながら、いろいろに手を尽くして読みたる
お江戸のおもしろ文学『黄表紙』なるものを
どなたさまにも楽しんでいただこうという
主旨のものでございます。

…といえば
聞こえはようございますが、
なにぶん素人仕事ゆえ
くずし仮名の読み下しすら
満足にならずの森の尾長鳥ときております。

また、本文の現代語訳は適宜、意訳しておりますが、
セリフの部分はなるたけ
原文の雰囲気を壊さぬことを心がけましたゆえ、
あえて原文のままにした部分もございます。

間違いの訂正などございますれば、
チッとお知恵を貸していただけると
渡りに船とばかりに飛びつきますゆえ、
どうぞ今後ともお知りおきを
ひとつ宜しくお願い申し上げまする。

(拍子木 チョンチョンチョンチョン…)

野暮天サチ 拝

さち玉

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野暮天のサチ

Author:野暮天のサチ
江戸のおもしろ文学『黄表紙』を読み始めて1年余り。
ど素人の独学なので試行錯誤中ですが、あまりにも面白いので、みんなにも「黄表紙読み」をお勧めしたいと思ってブログをはじめました。

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