ど素人、黄表紙をよむ

独学で黄表紙を読み、悪戦苦闘の成果をさらす。恥知らずの野暮天ですみません。

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人間一生胸算用①

『人間一生胸算用(にんげんいっしょうむなざんよう)
寛政三(1791)年 発行
著・画/山東京伝
版元/蔦屋重三郎

この本は、前年に出版された『心学早染艸』の続編。

実はわたくし、今まで現代語訳を載せた2作品については
読み下しの暗チョコ的なものがあったのでミスの確認ができたのですが、
今作品については完全に独学なので
読み下しの間違いも多いかと思います。
お気づきの点があれば、ご指摘いただけると嬉しいです。

ここをクリックで、全頁まとめて読めます。
※本文中のアンダーラインは脚注です。脚注はページ下部に薄青色で書いてあります。
※画像はクリックすると大きくなります。




人間一生胸算用01

(口上)

とざい、とうざいー。
高に控えましたる上ならず、
裸にて失礼の段、御容赦下されましょう。

さて、去年わたくしども寄り集まり
不調法なる狂言取り組み御覧に入ましたる所、
ことのほか御評判なし下され、大慶仕りましてござります。
付きまして、当年もさる御贔屓の御方さまの御薦めにより、
右後編を著し御覧に入れまする。

この草紙、老子不言の教えに
孔子のべったりと致したる示しを加え、
荘子の寓言に浮屠氏(ほとけ)の誠から出た方便(うそ)を取り混ぜ
三門ほら、気に仕り御覧に入まする。

ひとだまの口上、左様。

(ひょうし木)チョンチョン

寛政三 亥乃春
山東京伝 戯作



去年わたくしども寄り集まり…:前年に出版された『心学早染艸』のこと

三門ほら:「三文ぼら」と「三門」をかけている

三門:知恵・慈悲・方便の三つ


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人間一生胸算用②

人間一生胸算用02

ある時、京伝(著者)がうかうかと拙庵をたち出で、
いずこへともなく出かけると、思いがけず善魂の隠れ家へ来て、
人間の体の講釈をきく。

人間一生胸算用02 善たまアップ

 善たま「人間の体は天地を小さくしたようなものじゃ。 
      すなわち、二ツの目は月日のごとく、肉は土に等しく、
      骨は岩石のごとく、血は水にて、脈は水の干満に等しく、
      毛や爪は樹木にて、つく息とひる屁は風のごとく、
      涙と小便は雨に等しく、言葉を言うのは雷の発するがごとく、
      体に生ずるノミ・シラミは鳥・獣の生ずると同じ通り、それ蛇によって
      股ぐらの谷あいには松苔も生じ、
      道その下の海辺には赤貝も埋まっているではないか。

      そのうち心というものは、天地造化の神に等しく、
      この者の了見次第で、聖人や仏も生まれ、また鬼も天狗も生まれる。
      かてんか、がてんか」

と、古風なせりふで、博物誌にいう 
「上肉川脈の引っくり返し」を言い聞かせる。

善たま「○老子は、聖人その心を虚にす、と言い、
    ○大學には、まずその心を正しくすべし、と言い、
    ○華厳経には、唯一心、と説きて、

    ○心こそ 心まよわず 心なり
    ○心だに まことのみちに かないない

    …という神詠を思うにつけ、とかく大事なものは心じゃ。
    “大事なこころ ほんだわら”などと悪い地口を言うなども、
     やっぱり心のしわざじゃ」

人間一生胸算用02 振袖新造

ここはさしずめ、
売薬見世の言いたてなら親王の人形という場だが、
それではあんまり色気がないから、
「しんのう」の代わりに新造と洒落たのだ。

京伝は、ただ「御もっとも、御もっとも」と合わせている。



博物誌:自然界の事物・現象を総合的に記述した書物。
      自然学のジャンルが分化する前の百科事典みたいな感じ。

古風なせりふ:ここの善玉のせりふは、心学の講釈の口調をまねている。
          (しかし善魂の割りには、下ネタがエグいっす…^^;)

大學:四書五経のひとつ「大學」のこと

神詠:神が詠んだ和歌

大事なこころ ほんだわら:ほんだわら(馬尾藻)は茶色くてプチプチした海草で
           上方では正月の蓬莱飾りに使うものらしい…のですが、
           この地口がどういう意味なのか、不明です。
           どなたかご存知でしたら教えてくださいm(=_=)m

地口こちらを参照されたし。

売薬見世:薬屋のことだが、なぜ売薬見世が見立てるのか文脈が不明。実在の人物か?

親王の人形=節句に飾る雛人形や古代天皇などの人形。
          前段落の「神詠」と「親王」をかけている。

新造:振袖新造=まだ体を売らない若い女郎。
     ここでは、画像の美少女のこと。


人間一生胸算用③

人間一生胸算用03

京伝は、気の詰まった面白くもねえ悪長い講釈を聞く。
大いにシビレを切らしていたが講釈が終り、
善たましいが言うには

「あと、今からつれて行く所があるが、行ってみる気はないか」

などと言うので、京伝は

(こいつ吉原へでも行く口ぶり、まんざらでもねえ)と思い、

  京伝「こりゃァ、行くほうでごぜえしょう。
     今からいきなり吉原に飛び出したんじゃ、おもくろ山の村ツバメ。
     柳橋に幸い、やつがれ馴染みのお宿もありますから、
     サアサア」

…と、すぐにいきいきと急ぎ立つと、
善たましいは「イヤイヤ、船もへちまもいらぬ」と言い、
ひと声「乗りもの、これへ」と呼べば
一片の雲がおこり、善たましいと京伝を乗せた。

どこへ行くかと思っていたら、
京伝の東隣りの有徳な商人(あきんど)・無名屋無二郎の家に来たのだれども  
誰もこれを知る者はいない。

人間一生胸算用03 無二郎アップ

この無二郎というのは
いまだ二十三と年は若いけれども真面目な生まれで、
なりふりも構わず、朝夕そろばんを離さず、よく稼ぐ息子である。
今、ともだちの京伝を腹の中へ飲みこむ事とは
夢にも知らず、独り言を言っている。

  無二郎 「オラが隣りの京伝は、まさに空亡(くうぼう)な男だ。
       また4~5日出かけて、家へ帰らぬそうだ。
       馬鹿につける薬がないとは、よく言ったものじゃ。
       となりの疝気で、ああ頭痛がする」           

  京伝 「忌々しいやつだ。俺のことをクソのように言やァがる。
      くさめ、くさめ
  
そうしているうちに、京伝の体が豆人形のように小さくなり、
無二郎がふき出した煙草のけむりに連なって
無二郎の体の中へ入っていくとは不思議である。

人間一生胸算用03 マメ京伝アップ

京伝「ハイ、冷えものでござい。ごめんなさい」



おもくろ山:おもしろいの逆=「おもしろくない」の意味。

柳橋:といえば船宿(屋形船)である。
    今でも隅田川で商いをする多くの船宿屋が営業している。

空亡:「空亡」は四柱推命の用語で大変縁起の悪い日のことで、
      ここでは「家がカラっぽで縁起が悪い」程度の意味。
      四柱推命でいう干支とは、「子丑寅…」の十二支と、
      「甲(きのえ)・乙(きのと)・丙(ひのえ)…」の十支の組み合わせのことだが、
      空亡では十支が無くなり空になってしまう。                 
      ちなみに六星占術では「大殺界」といい、算命学では「天中殺」というらしい。

疝気:男性の下半身の病気。

となりの疝気で、ああ頭痛が~:ことわざ「他人の疝気を頭痛に病む」とかけている。
                     自分に関係のないことで余計な心配をすること。
          
くさめ:くしゃみ。はっくしょん。

冷えものでござい:銭湯に入るときの挨拶。
             身体が冷たいがごめんなさい、という意味。

※無二郎について
 身なりも構わず、まじめで田舎言葉を話す無二郎は
 粋な江戸っ子に対して、無粋で野暮な田舎者を象徴している。


人間一生胸算用④

人間一生胸算用04

善たましいの神通力で、京伝が無二郎の腹の中へ入ってみると、
腹の中に一つの国があった。
これが、かの小天地というもの、
名づけて無状無象(むじょうむぞうこく)と云う。

人間一生胸算用04 心と気

この国の旦那はつまり「心」である。
番頭は「気」だ。
「心」と「気」とは元々、一体分身である 

「耳・目・鼻・口」の四つのものは、重手代(おもてだい)役人
「足」と「手」は、手代から腰元、草履とり、丁稚までを兼ねて勤め、
中でも忙しい仕事だ。

この者どもの腰に、ひと筋ずつの縄をつけ、
主人の心がこれをしっかと締め括っていて、
手を動かそうとする時は手の縄をゆるめ、
歩もうとする時は足の縄をゆるめる。

皆々が心の下知に従って働いてる様子は、
鵜使いのごとく、猿まわしのごとしだ。
「心の駒の手綱ゆるすな」とは、この事である。

無二郎が心がけてより正せば、
よく落ち着いて皆に下知するので、
この国はよく治まって穏やかだ。

しかし恨むらくは、無二郎は年が若いために
番頭株の気は何かにつけて、折々、気のかわる事があり、
フラフラとした気になるのだが、
心は一歩引いてよく思案をし、
堅く気をいましめて、暮している。

人間一生胸算用04 京伝アップ

京伝はこの様子を不思議がる。
これを見れば、荘子が「蝸牛(かたつむり)のツノの上に国がある」と言ったのも、
まんざらの万八でもあるまい。

人間一生胸算用04 口手足

  口 「善たましいが“入ってみろ”と言ったのが、なるほど聞こえやした」

  足 「これこれ手よ、目をさませ、さませ。
     心の旦那がこんなガサツキから、綱を動かさっしやる」

  手 「ナァニ、知らねえフリをして寝るがいい。
     大方また、鼻に手ばなをかんでやれという事だろう。
     恐れ多い旦那だ」

  京伝「さてさて、おつりきな理屈のものだ。 
      まったくコケが宝引きを引くようだ」




無状無象:老子の「道(タオ)」の教えに出てくる、古に物事が生じる時の状態のこと。
       無色、無音、無形で手に触れないもの、目に見えない形、
       名づけることのできない状態を指す。

一体分身:一体である神仏が人の救済のために様々な姿で現れること。

重手代:古株の手代、商家の実務を大方引き受ける。

役人:役割のある人。(現代語の役人=役所勤めの人のことではない)

まんざらの万八:まったくのウソ
            「万のうち八つしか本当のことを言わないホラ吹き」のこと

おつりき:一風変わった

宝引き:糸の先に景品(果物など)がついているクジ遊び。


人間一生胸算用⑤

人間一生胸算用05右
この折におもてを、
 
  初カツオ~ 初カツオ~

…と呼び声が通ると、早くも耳は聞きつけ、口は無性に食いたがり、
番頭の気をそそのかせば、気はもとより少し浮かれ者なので
心に言う。

  気 「もし、心の旦那。思い切って初鰹をお買いなされぬか。
     七十五日生き延びると申します」

と勧めたが、心は言うことを聞かず、買わない。
こうあっては無二郎の身の行く末、万代も栄えるだろうと、
道々、頼もしく見える。
耳にもろもろの不定(思いがけないこと)を聞かせ
心にもろもろの不肖(未熟なこと)を思わすとは、ここの事だ。

  耳「番頭(気)さん、お前のお働きで旦那の前を、
     ちょっといいように頼めよ」
     …などと、七ツ屋にでも来たように口説く。

  気「もし、旦那。清水の舞台から落ちたと思って、お買いなされぬか」

  心「イヤイヤ、俺は清水の舞台にのぼったと思って、買うまい」

  京伝「なるほど、こう心が確かでは、
     気はいきいきとは出来ねえはずだ」
  
人間一生胸算用05左

そんなある日、無二郎が寺参りの帰りに両国辺りを通ると、
向こうより芸者が来たので、
目はたちまちこれを見つけて迷い、
耳はその三味線を聞きたがり、気をおだてると、
気はグッとこれにのり、心に勧めたけれども、
心はキッと辛抱して、なかなか合点しない。

  目「なんとマァ、いい燭台じゃアねえか。
     百目かけをいっちょう、灯してえ」
    …と、大門通りの金物見世を褒めるように、褒める。
  
  心「とかく見ると目の毒だ。見るな見るな。
     サア、歩べ歩べ。
     ざっと勘定したところで二分も痛事だ」

  芸者「喜助どん、百川には小田原の官司さんも、
      いさっしゃったかの」

  喜助「もっとかんざしを差し込みなせえ」




七十五日生き延びる:初鰹は初夏を告げる風物詩。
              初物は食べると寿命が七十五日延びると考えられ、江戸庶民に人気だったが、
              特に初鰹は霊験あらかたとされ、その人気は熱狂的だった。
              値段もべらぼうに高騰したので、
              江戸っ子は見栄をはって粋に初鰹を食うか、
              値が下がってから野暮ったく食うかでずいぶん悩んだらしい。

七つ屋:質屋。

いきいき:「生き生き」と「粋」をかけている。

百目かけ:1本で百匁(約375g)もある大きい蝋燭。

二分も痛事:約3万円の痛手。

百川:日本橋の有名な料亭。浮世小路に明治初年まであった。

官司さん:役人


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野暮天のサチ

Author:野暮天のサチ
江戸のおもしろ文学『黄表紙』を読み始めて1年余り。
ど素人の独学なので試行錯誤中ですが、あまりにも面白いので、みんなにも「黄表紙読み」をお勧めしたいと思ってブログをはじめました。

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