ど素人、黄表紙をよむ

独学で黄表紙を読み、悪戦苦闘の成果をさらす。恥知らずの野暮天ですみません。

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方言競茶番種本⑩

■太五助、功をたてる。その正体は…

呑太夫の顔アップ

呑太夫は心中におかしさを押し隠し、

  呑太夫 「ヤイ太五助、不義せんとせしは不届きなれども、
       親に孝ある汝の心底しおらし、
       暇(いとま)はやれども取替えの金子(きんす)たてるには及ばぬ。 (※)
       このふんどしも捨つるよりは、そのほうへ返すぞ」

と、足にてそっと蹴ってやれば、

太五助アップ


  太五助 「ヤア、何そのふんどし下されんとや。
       ハア/\有難やかたじけなや、焦がれ慕うた親ふんどし、
       ご辞退申さず頂戴せん。
       重々深きご恩の御礼、今より御身の守りとなり、
       疝気になやみ給う時は、(だいだい)の粉を奉らん」

と、後ずさりして三拝九拝し、悦ぶことは限りなし。
呑太夫かさねて

  呑太夫 「詮議は済んだり、イザさらば」

夜明けまではほどもあらん、今ひと眠りとたち寄れば、
目算違えど詮方なく、お酌は今さらむっと顔。

男どもはそれぞれに、おのが部屋へと呑太夫、
みな打ち連れて入る後に、ひとりへっくり太五助が、
あたり見回し/\て、

  太五助 「お旦那の夜這いを引き受け、われ罪を蒙りしは、
       摺粉木腹を助かりし、ご恩に報いるひとつの功。
       たちまちこれで差し引きなし。
       さらば、おいとま申さん」

と、寝ござに包む天徳寺、引っかたげつつ悠々と、
表をさして立ち出れば、ひと間の内より声高く、

  呑太夫 「ヤアヤア、太五助とは仮の名。
        まことは東都戯作者の一人(いちにん)
        十返舎一九、まず待ちやれ!

呑太夫アップ(通帳の鎧)

と、障子開くれば呑太夫、
米屋・魚屋・青物屋の通帳を鎧となし、
味噌こしザルの龍頭(たつがしら)、猪首に着なして控ゆれば、
左右を守護する女ども、向こう鉢巻・玉だすき、
杓子(しゃくし)・摺粉木・棕櫚ぼうき、てんでに引っさげ立ちたる有様、
馬鹿気きってぞ見えにける。

太五助思わずとって返し、

  太五助
 (実は十返舎十九)「ハヽア、さすがの呑太夫よく知ったり。
           推量の通りそれがしこそ、
           十返舎一九と云えるなまくら者。

           貴殿の浄瑠璃好きなることを伝え聞き、
           何がな戯作の種にもと、姿をやつし入りこみしに、
           ハハア茶なるかな、方言(むだ)なるかな、
           酒本氏が家内の振る舞い、これぞ話の種本と、
           胸に納むるひと趣向。
           さらば!」

と出て行く年の、亥の初春のおとし玉
笑いの種を打ち出す豆、福はうちへと作料に、ありつく作者が悦喜の眉、
開くや花の草双紙、問屋の栄ぞ久しけれ。

作者 十返舎一九
    


取替えの金子:太五助は口入れで来た奉公人なので、
          呑太夫はすでに奉公代を支払っているが、
          それを返す必要はないと言っている。

橙の粉:「代々の子」と「橙の粉」をかけた洒落か?
      橙は「お家代々ご繁盛」する縁起物で、
      正月に餅などと一緒に奉納される。
      漢方医では胃腸病に処方もされる。
             
へっくり:調べたが分からなかった。
      文脈と語感的に「ひょっこり」か「こっそり」の同意語では?

天徳寺:紙衣の中にわらを入れた粗末な布団。
     芝の天徳寺の門前で売っていた。

龍頭:兜の前立て(おでこのところ)につける、龍の飾り。「りゅうず」ともいう。

向こう鉢巻:結び目が額にくるように締めた鉢巻き。

行く年の~:黄表紙は概ね、毎年正月に出版された。
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方言競茶番種本⑩

■ふんどしの子、太五助

太五助全身

「ヤア/\、しばらく/\。
 そのふんどしの主はこれにあり」

部屋の戸引き開け、太五助はずっと出、
 
  太五助 「ハハア、始終の様子は承る。
       それがし独身の徒然(つれづれ)
       ふと思い付き、あてなしの夜這いと出かけ、
       女部屋へしけこまんと致せし所、
       思いもよらず奥さまのお目にかかり、証拠となりたるそのふんどし、
       お手に入りしは逃れぬ落度、御家法を背きし大罪、
       いかようにも御成敗あそばしませ」

と、悪びれず、主人をかばう太五助が、心に立つるひとつの功。
それと察して、呑太夫が安堵の思い、
お酌は案に相違して、

  お酌 「ハテ、こころ得ぬ。
      みづからが見覚えのあるこのゆもじ、
      確かに主は知ったれども、横合いから太五助が、
      自身にそれと名乗り出すとは訝(いぶ)かしい。
     
      コリャ定めて人の難儀を見るにしのびず、
      そちが代わって身に引き受ける、などという様なことではあろう。
      サア有り様に言わぬか」

と、呑太夫を尻目にかけての問状(といじょう)に、
太五助いよいよ恐れ入り、

  太五助 「なんの人の身の上なら、高みで見物いたす拙者、
       必竟(ひっきょう)この身にかかる落度、
       隠しても隠されぬ、この場の次第に覚悟を極め、
       名乗って出る上からは、すこしも相違はござりませぬ。
      
       さりながら面目次第もなきそのフンドシ、
       さだめし奥さまや女中がたは、
       あの男も気のきいた風をして居ながら、
       この様な煮〆たような薄汚いフンドシをこいておったかと、
       お蔑(さげし)みもござりましょう。

       しかしそのフンドシは、私めが親のフンドシ、
       真っ黒に油染みましたるは、親父が金玉の油。
       それを親とお思いまして、今日まで肌身をはなさず、
       締めましたそのフンドシは私の親、
       私はそのフンドシの子でござります」

と、かたるにつけて薄汚く、お酌はつまみて放り出し、

   お酌 「ムム、そなたの親はこのゆもじ、ゆもじの子と言やるからは、
       さてはそなたは、ふってゐやるの」

  太五助 「ハヽッ、なるほど雪のふるたび爺親(てておや)
       疝気にて悩まれしその時は、 
       親子の違いもかなしい事も、まだわきまえぬ唐辛子。
       声がわりして年もたけ、にきびは顔に出来たれども、
       ふんどしをこくすべも知らず、ふって暮らせしこの年月。
    
       母者人(ははじゃびと)の恵みにて、
       不思議にもそのふんどし、私へ譲り受け、
       ハヽッ嬉しや喜ばしやと、
       その日より片時もは離さずこいたるふんどし。
       
       そのふんどしゆえに家内の人々へご不審かかり、
       しばらくも忠臣をくるしますは私が科(とが)
       もはや下宿(したやど)へさがりまする。
  
       今まではあなたがたの、お目をかすめし段、
       お情けには女中がた、お詫びなされて下さりませ」

と、ほろりとこぼす一滴(ひとしずく)
涙にあらぬ水洟(みずばな)なり。



問状:奉行が取り調べのために、当事者や証人に発給する文書。
  
ふって:フリチンで。

下宿:安価で下等な旅館、安宿。

方言競茶番種本⑨

■お酌のふんどし改め

お酌と女中

  お酌 「若党の利金太はじめ、ひとりびとり帯解いて、裸になりや。
      ふんどしこいてるなら許してやる、   
      "無ふん"のものは不義の当人。ソレ/\」

と、指図に従ひ女ども、立ちかかり、

  女衆 「サア/\、奥様の仰せ。
      みなの衆、ちゃっとフンドシにならんせ」

と、ひっ立てられて利金太は、

  利金太 「ハイ/\、私めはご存知の通り、若い時からの疝気持ち。
       狸の金ほどでっかいな、袋に入れて厄介もの、 
       なか/\越中フンドシでは、粟津(あわづ)の森のみそさざい
       木綿も長尺一丈あまり、なければならぬで紙子のふんどし、
       きれて破れて、かくの通り」

と丸裸。ひと目見るより、

  お酌 「ヲヽ、利金太には構ひない。次の男を改めよ」

と、お酌がことばに飯炊き親仁、

  飯炊き 「ハイ/\、わたくしめは憚りながら、
       下さまの御奉公は致しておれど、
       生まれついて、木綿フンドシ大の嫌い。
       お給金玉二歩あるうえ、フンドシまでも一歩絹、
       しめて三歩は何ごとが、ありても肌身はなさぬ男。
       不躾ながら…」

と、裾ひきまくり、見すればこれも疑いはれた。

「後を銘々改めよ」と、ことばの下より草履取り、
そのほか雇いの下部(しもべ)まで、残らず裸になりひさご
ぶらつく所を締めつけし、ふんどしお目にかけがえは、
ござりませぬと平伏す。

  お酌 「ヲヽ、みなの者の詮議はすんだ、この上は我が妻
      政道は、えこ贔屓なきを第一とするとやら、
      家のあるじとても男なれば容赦はない。
      念のため丸裸になって、お見せなされよ」

と、半分きかず呑太夫、

  呑太夫 「アヽ、コレ/\。身ども、左様の覚えはないぞ」

  お酌 「イエ/\、お覚えなければなおの事、ぜひに/\」

と政道を、表に世話を焼き餅の、下心とは見てとりながら、
覚えある身の呑太夫、うろ/\きょろ/\逃げ出すを、

  お酌 「どっこい、そうは虎の皮。
      ふんどし改めぬうちは、貧乏ゆるぎもさせませぬ


と、お酌はとって引っかえし、

  お酌 「サア/\、みなの者への面晴(おもは)、はよう/\。
      エヽ、聞こえました、日頃からのおまえの素振り、
      わしゃ合点がゆかぬと思うたが、コリャこの越中ふんどしは、
      さてこそお前のに違いない」

  呑太夫 「イヤ/\、身どもは知らぬ/\」

  お酌 「そんなら帯解いてお見せなされ。
      但しはみづからが手をおろしましょうか、
      サアそれは、サア/\/\/\」

なんと/\と手詰めの切羽、ぬきさしならぬお酌が指図に女ども、
呑太夫を押っとり巻き、裸になさんとひしめく所に、

ヤア/\、しばらく/\。
 そのフンドシの主はこれにあり




疝気:男性の下腹部~陰部が痛む病気の総称。
    腸炎、寄生虫症、前立腺炎、脱腸(ヘルニア)などを含んでいたらしい。

狸の金ほど~:「でっかい」「やっかい」で韻を踏んでます^^

粟津の森のみそさざい:「合わず」と「粟津」をかけた地口。
            地口については→こちらを参照されたし。

一丈:十尺=約3m。一般的な褌よりもかなり長い。
    ちなみに越中褌は腰ひもに1mくらいの下がりをつけただけのシンプルなもの。
    六尺褌の下がりの長さは約180cm。

紙子:紙衣ともいう。厚手の和紙を柔らかく仕立てて作った布。
    丈夫で持ち運びに便利らしく、防寒着や羽織などにも使われていた。

お給金玉二歩:「お給金二歩」と「金玉二個」をかけている。
           二歩:お金の単位「二分」のこと。
              一両=約7万円で換算すると、「二歩=二分」は約3万5千円。

裸になりひさご:ひさご=ひょうたん。「裸になる」と「ひさごがなる」をかけている。

貧乏ゆるぎ:「貧乏揺るぎもしない」=少しも動かない。

面晴れ:疑いを晴らすこと。

方言競茶番種本⑧

■真夜中の越中ふんどし

すでにその夜も更渡り、家内残らず子の刻過ぎ、
「時分はよし」と呑太夫、かねて約したおなべの寝所、     
それと這いゆく丸裸。

越中ふんどししっかと締め、さぐり出したる台所、
真っ暗やみらみっちゃにて、身は鷺(さぎ)のどじょう踏むごとく、
足おとガタガタ、ギシ/\/\。

これではならぬと、呼ばいになって灰吹たばこ盆、
行きあたりては会いたし、

「ここらか」
「イヤ/\まだ/\」
「そこらか/\」
「ヲヽ、ここじゃわいな」

と、おなべが声。
してやったりと部屋の戸を、そっと開けんとする所に、
いつの間にかは、女房お酌、かくと察してうかがい寄り、

  お酌 「ヤア、不義者見付けた。動くな」

と、首筋とって引きすえられ、南無三宝山の神に、
見付けられては一大事と、ふりはなし逃げんとす。

お酌とふんどし男アップ

暗さはくらし、めった掴みに武者ぶり合う、
こけつ転びつふんどしの、さがりを取って放さぬので、
「アイタタタ」も口の内、引きつ引かれつ陰嚢の、絞まる苦しさ呑太夫、
機転を利かせてふんどしの、紐の結び目とき解けば、
お酌は後ろへどっさり尻餅、その隙に、
呑太夫こそ/\逃げて行く。

  お酌 「ヤア/\女ども、灯りを持ちや。早う/\」

と呼ばわる声に下女はした、手燭行灯(てしょんあんどう)めいめい携え、
「ご用、如何に」と立ち出れば、お酌は件(くだん)の越中ふんどし、
ともし火に透かしとっくと改め、

  お酌 「ハハア、汚れたり/\。
      時はいま七ツさがりの古ゆもじ、確かにこれは…。
      ヲヽ、そうじゃ、家内の男ども、残らずここへ起きてきや」

と、わめきたちたる声の下、寝耳に水仕(みずし)の飯炊き親爺、       (※)
若党・小者われ先にと、うろたえ眼をすりあかめてはせ出れば、
呑太夫もさあらぬていにて出きたり。

  呑太夫 「コリャ女房ども、深夜に及んでさわがしい。何事ぞ」

と聞くもあえず、

  お酌 「ヲヽ、我が妻としたる事が、何事とはしらじらしい。
      大かたは推量したれど、確かなこと見届けねば、
      推してこうともいわれぬ次第。
      …と、言うはほかのことでもなし、先刻みずからが寝耳に
      ふっとこの台所にあやしき人声、
      合点ゆかずと起き出て、伺い見れば、女部屋へ這いこむ曲者。
     
     「さてこそ」とこのゆもじの、さがりをとって引きとめしに、
      はやくも紐を解き捨てて、逃失せたりしその後に、残りたるこのゆもじ。
  
      不義は家の法度なるのに、それ知りつつ女の部屋へ、
      這いかけし横道者、証拠のひとえ手に入る上は、
      家内の男帯せしもの、残らず詮議しとげねばならぬ。
  
      サア、このゆもじは誰がのじゃ、
      そち達のうち、覚えがあろう」
  
と、お酌が問いやるが、是非がない



残らず子の刻:「寝」と「子の刻」をかけている。子の刻=深夜0時前後。夜半。

真っ暗やみらみっちゃ:「真っ暗闇」と「やみらみっちゃ」をかけている。
            やみらみっちゃ=めちゃくちゃに。無闇やたらと。

鷺がどじょうを踏む:抜き足差し足で歩くこと

三宝山の神:ここでは怒りに荒れ狂うお酌を
         台所に祭ってある荒神様(三宝荒神)に例えている。
         三宝は仏・法・僧の三つ。
         荒神は火や竈(かまど)の神様であると同時に山の神でもあり
         (元は修験者の山岳信仰の流れのものらしい)、
         文字通り「荒らぶる神」でもある。

時はいま七つ下がり:およそ午後四時すぎ=盛りをとっくに過ぎた、くたびれている、の意。

寝耳に水仕:「寝耳に水」と「水仕」をかけている。
        水仕=水仕事をする人。

我が妻:性別を問わず、恋人や配偶者のこと。

是非がない:どうしようもない

方言競茶番種本⑦

■呑太夫とおなべ

おなべと猫

後はひっそり大水の、出たる後のごとくにて、
踏みあらしたる台所、おなべがひとり掃き掃除。
ちゃんとしまって暮れ六ツ時、行灯に火をともしの影。

  呑太夫 「ヲヽ、いた/\」
 
  おなべ 「誰じゃいな、わたしがお尻をつめったは」

  呑太夫 「ヲヽ、おれじゃ/\」

と呑太夫、ほかに聞く人はなし。

呑太夫の顔アップ

  呑太夫 「コリャおなべ。
       そちのこのムッチリとした、美味そうな尻つきに、
       思いこんで口説けども、今もって返事せぬはどうした心じゃ。
       聞きたい」

と、顔に似合わぬ猫なで声。
しなだれかかれば、おなべはわざと飛び退き、

  おなべ 「旦那さんとしたる事が、あられもないことおっしゃります。
       焼もち深い奥さまへ、聞こえましてはわたしの難儀。
       お許されて」

と、言いつつも、否にはあらぬ相模女(さがみおんな)
呑太夫はうぢうぢする手をなお引き締め、

  呑太夫 「ソリャそっけない。
       コレおなべ、とぢ蓋となりたい身どもが心、
       なんの女房へ知れたとて、へちまの皮のだんぶくろ
       底をはたしき心のたけ、これじゃ/\」

と手をあわせ、拝みくどけば

  おなべ 「エヽ、勿体ない。それほどにおっしゃるもの、
       わたしも嫌では内証の、小遣いそのほか衿袖口(えりそでぐち)、裾廻しのきれ
       朝鮮べっこうの櫛・(こうがい)、   
       黒塗りの下駄、ゆもじまで、買うて下さりますならば、
       いかにも惚れた旦那さま、わしゃ可愛い」

と、いだき合う、顔は赤らむほうべたに、臭気のほどを顕わせり。
呑太夫ぐにゃりとなり、

  呑太夫 「しからば後とは言われぬ弾み、かく相談の決まりし上は、
       つい、ちょこ/\と、今ここで」

  おなべ 「イエ/\、その相談、できたからのわたしが趣向、コレこう/\」

と囁けば、

  呑太夫 「ムウ、そんなら今宵そもじの寝所へ。うまい/\。
       かねて夜這いと定めたれば、この次の間の部屋を越し、
       しのび入るには中の間の、障子開くればそなたの寝所。
       ここを探って、こう這って…」

と、呑太が悦び間抜けながらも、ぬからぬおなべ、

  おなべ 「イエ/\、それは僻事(ひがごと)、ならん。
       根継ぎ前なるこの家の中、障子ふすまも皆ひずみ、
       妻戸ゆがんでガタピシ、開くるにギシつき、
       急きこんで外さば、音して目を覚まさんは、いかに/\」


  呑太夫 「ヲヽ、それにこそ手便(てだて)あり、懲っては思案にあたわずと、
       小便よりのかえるさ、思い付いたる泉水のしたたる水。
       妻戸をあけるわが工夫、仕様をこれにて見せ申さん」

と、身構えして立ち上がり、さしもに固いふすま戸も、
柱根といえばガッタリと、ひずみしところ見すましてそっと寄り、
鴨居たわむは弓同然。

  呑太夫 「このごとく土瓶の中に水を入れ、ぎしつく敷居に流しかけ、
       そっくりちっくり開ける時は、まずこのやうに、ふわつきし、
       床板踏めど、ぎしつかず、ずるりは土瓶の水のちから、
       敷居にながれて溝ゆるみ、障子残らず、する/\/\」

おなべはおかしさに笑い、

  おなべ 「ハヽア、したり/\。
       そんなら後にだんな様、かならず待っております」

と、しめし合わせてお奥と口、別れてこそは入りゆく。



相模女:相模国=現在の神奈川から、江戸に奉公に出た女性たちのこと。
       当時、相模女は好色者が多いという俗説があった(ひどい^^;)。

へちまの皮のだんぶくろ:へちまの皮=つまらないもの。
             だんぶくろ=布製の大きな荷物袋。
             ここでは女房のお酌を、
             少しも気にする価値のない、へちまの皮の荷物袋だと言っている。

底をはたきし:直前の「だんぶくろ」にかけて、
        袋の底をはたいた本心だ、と言ってる。

嫌では内証の~:「嫌ではない」と「内緒の小遣い」をかけている。

衿袖口・裾廻しのきれ:和服の衿や袖を別の布で二重に仕立てて
            重ね着風に仕立てるのがおしゃれだった(今でも重ね着風の服ってありますね)。
            それに使う布を買えとねだっている。

:かんざしに似た平たい形の髪結いの道具

ゆもじ:腰巻き。下着のひとえ。

僻事:道理に合わない。間違ってる。

根継ぎ:木造建築で傷んだところを取り除き、新しい材で継ぎ足すこと。

妻戸:家のはじっこにある開き戸。

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野暮天のサチ

Author:野暮天のサチ
江戸のおもしろ文学『黄表紙』を読み始めて1年余り。
ど素人の独学なので試行錯誤中ですが、あまりにも面白いので、みんなにも「黄表紙読み」をお勧めしたいと思ってブログをはじめました。

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